5月9日付 植田日銀新総裁の政治性に問題 誠実な学者、政権の足を引っ張らないとの判断で指名 組織的な後ろ盾なし

日本銀行(植田和男総裁)が4月27~28日に開いた金融政策決定会合から10日が経った――。
 同28日の東京株式市場で日経平均株価は前日比398円高(1.4%)の2万8856円と年初来高値を更新した。理由は明確だ。植田総裁下、初めての金融政策決定会合で金融緩和政策を当面維持するとの決定が好感されたのだ。
 一方、東京外国為替市場では円安ドル高が進行、輸出関連株が急騰して5月1日の日経平均株価は8カ月半ぶりに2万9000円を超えた。そもそも市場関係者の関心事は2つあった。第1は2023年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI)の前年度比上昇率である。第2が長短金利操作(YCC)の修正の有無だった。先ず指摘すべきは、植田執行部は2%の物価目標達成を確信できない限り、日銀がYCC調整をすることはないとの見方が支配的だったことだ。
 事実、日銀が会合後に公表した「展望レポート」には23年度のCPI上昇率1.8%、24年度2.0%、25年度が1.6%と記述されている。従って、インフレ率2%達成に確信をもって予見できなかった上に植田総裁の事前の維持示唆もあり、YCC調整を見送ったのである。一方、多数の投資家は最終的に日銀がYCCを撤廃するのはそれほど遠くない時期と見ている。現下のインフレが劇的に変化しない限り、日銀が待てば待つほど市場からの圧力は大きくなるし、YCCが注目を集めれば集めるほどYCC修正は難しくなる。▶︎

▶︎加えて、自民党が先の衆参院5補欠選挙で「4勝1敗」の結果を得たことで、岸田文雄首相が早期の衆院選実施を決断した場合、6月、7月の日銀会合における意思決定に与える影響は小さくない。実際、ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「次の物価上昇率見通しが発表される7月にはYCCが修正されると予測する」(産経新聞4月29日付朝刊)と語る。筆者が問題視するのは植田総裁の政治性である。「異次元の金融緩和」の黒田東彦前総裁は自民党安倍派と財務省の全面バックアップがあっただけでなく、野党やメディアによる罵倒に対して「平気の平左衛門」を決め込む胆力があった。
 だが、誠実な学者であり、政権の足を引っ張るようなことはしないとの判断から指名された植田氏にはそれがない。さらに組織的な後ろ盾もない。 となると、植田新体制は当分間、積極的な政策決定を下すインセンティブが低いのではないか。