5月20日付 中国が目論む南半球諸国の「習近平化」に「ノー」の大合唱へ…G7広島サミット隠れた「アジェンダ」をご存じか

岸田文雄首相は広島市で開かれている主要7カ国(G7)首脳会議(5月19~21日)開幕前日の夜、来日したジョー・バイデン米大統領と市内のリーガロイヤルホテル広島で1時間10分会談した。
 先ず、このG7広島サミットに先駆けて出来した“米タイム誌事件”について言及したい。同誌のチャーリー・キャンベル東アジア特派員は岸田氏がアフリカ4カ国・シンガポール歴訪に発つ前日の4月28日夕、首相公邸で単独インタビューを行った。5月12日(現地時間)発売の同誌はインタビュー記事の一部をウェブサイト(同9日午後9時)に公開したが、問題となった記事の見出しは「Prime Minister Fumio Kishida Is Turning a Once Pacifist Japan Into a Military  Power(岸田文雄首相がかつて平和主義だった日本を軍事大国に変えようとしている)」であった。ところが、在ニューヨーク日本総領事館が記事の見出しと中身に乖離があると抗議したことから、同11日午後になって見出しを「Prime Minister Fumio Kishida Is Giving a Once Pacifist Japan a More Assertive Role on the Global Stage(平和主義だった日本に、国際舞台でより積極的な役割を与えようとしている)」に差し替えた。我がマスコミは岸田首相の写真が表紙に掲載されたことから、日本経済新聞(5月11日付夕刊)の「米タイム誌、岸田首相表紙―『日本の選択』テーマ」報道、そして「『岸田首相は日本の軍国化望む』―米誌タイムに外務省異議」(産経新聞12日付朝刊)など、主要各紙の関心は見出しへの抗議→変更に集中したようだ。注目すべきはまさに記事の中身ではないか。公正を期して言えば、至極真っ当なインタビューである。キャンベル記者が使ったワーディングを詳細にチェックすると、岸田氏を「his reputation as a bland functionary(当たり障りのない役人という評判)」と表現するなど些かの偏見が見受けられる。
 だが、各方面にきちんと事前の取材を行った上で首相インタビューに臨んだことは記事を具に読めば得心できる。実際、林芳正外相は記者会見で「記事全体として見れば説明が反映されたものとして受け止めている」と述べている。▶︎ 

 ▶︎筆者が感服した表現があった。最終パラグラフの「Beijing has set about courting the Global South with a new forum for international relations, which the nation’s state media has dubbed “Xivilization”.」である。習近平国家主席が目指すグローバルサウス(南半球の新興・途上国)取り込みのための新たな国際戦略を、中国国営メディアが「文明化」(Civilization)と名付けたとあるが、Ciを英語同音のXiと表記したのだ。もちろん、「Xi (Jinping)vilization」は「習近平化」ということである。こうした“遊び心”は読者の気持ちを掴むはずだ。
 さて、本題に戻る。G7広島サミット2日目午後は「複合的危機への連携した対応」と「持続可能な世界に向けた共通の努力」のセッション2つが予定されている。その間に「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」というサイドイベントが催される。実はこのPGIIこそが隠れたサミットのアジェンダになるものだ。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアに勝利することはもとより、戦争後の総額100兆円超規模とされる国土復興にも心を砕いているが故に、今回サミットにはオンライン出席する。習近平氏が傾注する「一帯一路」(中国を起点とする広大な経済圏構想)に参加するイタリアのジョルジャ・メローニ首相がG 7首脳会議で脱退を表明する可能性が高い。これを奇貨として「自由で開かれたインド太平洋」実現を追求する日米豪印(クアッド4カ国)と英仏独伊(NATO加盟主要国)などはグローバルサウス諸国と連携して何とか中国の強権的な海上覇権行動を阻止したいとする。と同時に、ウクライナ復興がビジネスチャンスとも捉えている。中国がウクライナ戦争でロシアを支援する限り、戦後復興に向けた投資も認めないというのだ。
 換言すると、広島発の「Xivilization(習近平化)断念」を求める大合唱なのである。果たして21日に公表されるG7首脳会議共同声明にどのような文言が盛り込まれるのだろうか。とここまで書き進めていたら、速報でゼレンスキー氏が20日夕に緊急来日し、G7サミット最終日の21日協議に参加すると報じられたのだ。確かに、オレナ大統領夫人が16日に特使として訪韓し、尹錫悦大統領を表敬したことから「ゼレンスキー訪日」の噂はあった。それにしてもビッグサプライズである。ゼレンスキー氏と岸田、バイデン氏ら15カ国・国際機関首脳の記念写真一葉で、月末のマスコミ世論調査は内閣支持率のさらなる上昇は間違いない。衆院解散・総選挙の早期実施の可能性は排除できない。「ツキ男」岸田氏の面目躍如である。「ツキも実力のうち」とご本人から言われそうだが…。