米著名起業家であり、米電気自動車(EV)最大手テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏の言動に世界の耳目が集まっている。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT。5月24日付)はマスク氏をオピニオン欄で大きく取り上げた。そして日本経済新聞(31日付朝刊)が、FT記事を「身勝手なマスク氏の『自由』―発言より行動に真意あり」と題して和訳全文を掲載した。 まずUSナショナル・エディターのエドワード・ルース氏の署名記事の内容に触れる前に英文のタイトルを検証する。
少々長いが寛容下さい。「Beware Elon Musk’s warped libertarianism The billionaire entrepreneur’s AI initiative is disturbing in light of his selective approach to political and civic freedoms(イーロン・マスク氏の歪んだ自由主義に気を付けろー億万長者の起業家によるAI構想は、政治的・市民的自由に対する彼の選択的なアプローチを考慮すると不安をもたらす)」日経の表題とはややニュアンスが異なる。それにしても、和文を読むと分かるが全体のトーンはマスク氏に厳しい論調だ。▶︎
▶︎三つ例を挙げる。《問題は、マスク氏のような大富豪のリバタリアン(自由至上主義者)は、好きなことは何でもできるほどのお金を持っていることだ。》《マスク氏はツイッターを自身が考える言論の自由の場に変えた。……しかし今では、マスク氏の自我を発露する場と化している。》《マスク氏の政治的な動機が見破られるのが早まるほど、社会の安寧にとってより望ましい。》この翻訳記事が掲載された前日、マスク氏は北京を訪れて中国の秦剛・国務委員兼外相と会談した。そしてテスラは米中デカップリング(分断)に反対し、中国事業を拡大する考えを伝えたというのだ。翌日には産業政策担当の金壮竜工業情報化相とも会談している。
筆者は先週半ば、経済産業省中枢で政策立案を担う中堅幹部と長時間話す機会を得た。そこで同氏のマスク評を聞いた。「トランプ支持もあり、リベラル系の米紙ニューヨーク・タイムズなどから目の敵にされています。FTもその一つです。ただ、単身乗り込んで米中分断反対をアピールする。批判する向きもあるが、新興経済人として極めて真っ当です。我が国ビッグビジネスの経営者もあの気概を学んでほしい」――。「モノの輸出」という概念が陳腐化した今、日本はさらなる海外市場獲得には真のグローバル企業化が必要な段階に来ているのだ。