7月1日付 日本とアメリカの新しい対中戦略枠組み「JAROPUS」で暗躍する「安保マフィア」その存在をご存じだろうか

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やや旧聞に属するが、米紙ワシントン・ポスト(WP。6月22日付電子版)のオピニオン欄に「America’s Asian allies are quietly joining forces  to confront China(米国のアジアの同盟国は中国と対決するために静かに力を合わせている」と題した記事が掲載された。同紙コラムニストのジョシュ・ロギン氏の手に成るものである。 ロギン氏は年初1月8日、岸田文雄首相が同夜11時過ぎ政府専用機で欧米5カ国歴訪に向け羽田空港を発った6時間前の慌ただしいなか首相公邸でインタビューをしている。遡ると同氏は2017年8月、当時の河野太郎外相が訪米する直前にもインタビュー、さらに19年2月の米朝首脳会談(ベトナムの首都ハノイ)2カ月後に訪米した河野外相を滞在先のワシントンでもインタビューした。要するに、日本外交の節目となるタイミングで我が国の首相や外相の単独インタビューを物にする外交・安保専門のコラムニストということだ。
 そのロギン氏が書いた記事に次のような件がある。《For the first time, national security advisers from Japan, the Republic of  the Philippines and the United States met as a trio. This is an elevation of a new trilateral grouping insiders call JAROPUS, combining the names of the three countries in a similar way to AUKUS, the more formal grouping of Australia, the United Kingdom and the United States.(日本、フィリピン、米国の国家安全保障担当補佐官が初めて3人で会談したのだ。これはオーストラリア、英国、米国が構成する正式なグループであるAUKUSと同じように、日米比の名称を組み合わせてJAROPUSと内部関係者が呼ぶ新しい3カ国グループへの昇格である)》。報道にあるように、日米豪印の4カ国枠組みを「Quad(クアッド)」と呼ぶが、正式には「Quadrilateral Security Dialogue」(日米豪印安全保障対話)の略語である。
 そもそも「Quad」は「4つ」の意味だ。したがって、この「JAROPUS(ジャロプス)」はJapan , the Republic of Philippines, the United Statesの頭文字からの造語である。ちみに筆者が編集・発行するニュースレター「インサイドライン」(6月10日号)でその旨書いたが、我が国の大手マスコミはどこもフォローしなかった。そうした中で、あの!米紙WPがやっと追認してくれた。▶︎

▶︎さて、ここから本題である。この新しい日米比の戦略枠組みJaropusは、QuadやAUKUSと同じく最終的に3カ国首脳定期会合を目指すが、WP記事中にも登場するジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と秋葉剛男国家安全保障局長の日米タッグチームが年初来の周到な準備によって実現したものだ。日米両国の安保担当責任者の念頭にあるのはもちろん、中国の存在=台湾有事である。
 一方、6月24日には北欧デンマークの首都コペンハーゲンで主要7カ国(G7)のほか、インド、南アフリカ、ブラジル、サウジアラビア、トルコなど「グローバルサウス」(南半球の新興・途上国)の主要国、そしてウクライナとデンマーク両国の安全保障担当責任者がウクライナ情勢を巡り協議した。 このウクライナ情勢関連会議もデンマークの協力を得て日米が呼び掛けて実現したものだ。岸田首相は7月11~12日にバルト3国・リトアニアの首都ビリニュスで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に昨年のスペイン・マドリード会議に続き、出席する。ウクライナ支援の結束強化を改めて各首脳間で確認するためだ。注目すべきは翌13日に、ベルギーの首都ブリュッセルを訪れて欧州連合(EU)本部でウルズラ・フォンデアライエンEU委員長と会談することだ。同行者筆頭は林芳正外相だが、むろん同行する秋葉氏がキーマンである。欧州各国の経済人の北京詣でが際立つなかEUはドイツの元政治家、フォンデアライエン氏が中心となり経済安保戦略重視にシフトする方針を明らかにしている。
 そのためにはEU・日本の安保協力を拡大したい、戦略的パートナーシップ協定まで踏み込みたいとの意向とされる。やはり中国が念頭にあるのだ。秋葉氏はドイツにおけるパートナーのイェンス・プレットナー首相補佐官(外交・安保担当)とも気脈を通じている。日米、日米韓、日米豪印、日米比、日・EUを取り結び、且つ近い将来の日中韓、日朝も視野に入れる我が国のかけがえのない「安保マフィア」なのである。