7月8日付 経済産業省幹部が明かした経済産業政策の「新機軸」重要視されている「8つの分野」があった…!

今週前半、ワシントンから来訪された米調査・分析会社OBSERVATORY VIEWグループの齋藤ジン氏と長時間、昼食を交えて話し合った。実に有為な懇談だった。金融アナリストの齋藤氏は1980年代後半から彼の地で米国の視点で日本の経済・金融・政治をウォッチしてきた秀逸の「ジャパン・オブザーバー」でもある。同氏開口一番の指摘は次のようなものだった。「中国の影響力拡大の中でデカップリング(分断)であれ、デリスキング(リスク回避)にしても現在のバイデン政権は対中政策で手一杯です。このタイミングはまさに岸田外交にとって絶好のチャンスです。国際社会における米国の存在感の低下を補完することが求められている。外交だけではありません。ウクライナ戦争後の復興プロジェクトにも象徴されるように、この間の経済低迷によって日本が「失われた30年」を取り戻すためのチャンスでもあります。そこで肝心なのが産業政策なのです」――。
 この指摘に納得できた。では、齋藤氏が言う「産業政策」とはいったい何を指すのか。偶然とは恐ろしいものだ。数日後、筆者は経済産業省中堅幹部で同省有数の政策通との昼食懇談の機会があった。霞が関の夏の定期人事異動直後でもあり、経産省幹部人事についての感想を聞く中で新しい陣立ての特徴を尋ねた。まさにピンポーン!だった。何と件の中堅幹部が挙げたキーワードが「産業政策」であった。中堅幹部の説明は概ね以下のようなものである。同省が掲げる経済産業政策の新機軸は、「期待」の醸成による国内投資・イノベーション・所得向上の3つの好循環の「持続化」――に尽きる。
 具体的には、①ミッション志向の産業政策による新自由主義からの転換、②少子化対策に資する地域の包摂的成長、③経済安全保障の実現と日本社会のグローバル化の両立、④データ駆動型行政やスタートアップ・イノベーションの育成などの社会基盤(OS)の組み替え――である。▶︎

▶︎平たく言えば、「GX(グリーントランスフォーメーション)」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、「経済安全保障」、「健康」、「レジリエンス(回復力)」、「バイオものづくり」、「資源自律経済」、「地域の包摂的成長」の8分野がキーワードになる。国内投資とイノベーションが相互補完の関係にあり、双方が消費拡大をもたらし、結果として所得向上を実現する三角形の関係にあると、先の経産幹部は力説した。
 ほぼ同時期にワシントンの住人と霞が関官僚からほぼ同じ指摘と説明を受けたことに驚いた。そして得心した。 では、これまでの「国内に投資しない」大企業、「賃金が上がらない」春闘、そして「どうせ変わらない」日本に潮目の変化が起きつつあるのか。答えはイエスである。この持続的な成長につなげるラストチャンスである今般の潮目の変化の事例を挙げてみる。その際たるケースはソニーグループ(吉田憲一郎会長兼CEO)が中心となり世界最大の半導体生産受託会社の台湾積体電路製造・TSMC(魏哲家CEO)を熊本県菊陽町に誘致、両社が共同して半導体工場建設を進めていることだ。経産省が全面支援の官民連携事業である。この大プロジェクトで九州全域の経済活発化が期待されている。
 一方、トヨタ、ソニー、NTTなど日本の主要企業が出資する先端半導体生産受託会社ラピダス(小池淳義社長)は北海道千歳市にロジック半導体向けの最先端の2nm(ナノ)世代技術開発を標榜し、新工場建設を目指している。経産省は官民連携の観点から総額3300億円支援を表明している。業界関係者の一部には2 nm半導体製造にリアリティがないと批判する向きがある。こちらのingプロジェクトのキーワードは「官民連携」。いずれにしても、産業政策が3~5年後の日本経済を元気にしてくれるのであれば大歓迎だ。その先の長期的目標は、将来の成長期待に基づく民間投資の促進と企業活動を高付加価値化し、経済産業構造の転換による長期持続的な経済成長である。これに否と言える者はいないはずだ。少々、きれい事に過ぎたかもしれない。ご寛容下さい。