8月5日付 重要鉱物の宝庫…アフリカの“脱中国”が、日本に与える深刻な影響

今週初め、森健良外務事務次官と昼食を交えて懇談する機会を得た。外務省は8月10日付で定期人事異動を発表する。森次官は退任し、後任に岡野正敬官房副長官補(兼国家安全保障局次長)が就任する。森氏とは岸田外交の機微に触れるテーマも話題となったが、オフレコ懇談であり、その内容を明かすことはルール違反である。従って、本稿では取り上げない。ただ、その直前の7月16~21日に次官出張の最後となった森氏のアフリカ2カ国訪問についての話は興味深い上に参考にもなると判断(独断?)し、2カ国のうちザンビアに関して言及する。アフリカ大陸南部に位置する共和制国家で旧宗主国はイギリス。最貧国の一つとされるが、平原が多く平均標高1000mで夏は涼しく一年中過ごしやすい国である。国内に部族間抗争は殆ど無くこれまでの政権交代も穏便に行われており、治安も良好である。
 しかし、1970年代初頭からザンビアなど周辺国が産出する銅獲得を目指す中国の進出が際立ち、ザンビア産の銅をインド洋に面した隣国・タンザニアに運ぶために建設した「タンザン鉄道」(ザンビアの鉱山都市カピリムポシ~タンザニアの港湾都市ダルエスサラームの全長1860㎞)に象徴されるように、同国のインフラ整備は中国依存度が高い。ところが、と森氏は説明する。2年前の8月に発足したヒチレマ政権は今、スリランカの経済危機の元凶とされる「債務のワナ」を念頭に“脱中国”を推進し始めたというのだ。
 事実、動きがあった。同27~28日にロシアのサンクトペテルブルクで開催された第2回ロシア・アフリカ首脳会議(ウラジーミル・プーチン大統領主催)にザンビアのハカインデ・ヒチレマ大統領以下、ナイジェリア、ケニア、ルワンダ、ナミビアらの首脳が参加しなかったのだ。ナミビア、タンザニアはザンビアの隣接国家である。さらに指摘すべきは、西村康稔経済産業相が8月6~13日の日程で、ザンビア、コンゴ、ナミビアの銅産出3カ国に加えて、アンゴラとマダガスカルを訪問することだ。そして特筆に値するのは、銅産出3カ国が電気自動車(EV)の電池に欠かせないコバルト、重要鉱物のニッケルやリチウムの産出国でもあるのだ。▶︎ 

▶︎一方、中国は8月1日から半導体素材である希少金属(レアメタル)のガリウムやゲルマニウムの関連品目について輸出規制に踏み切った。日本は世界最大のガリウム消費国である。中国のガリウムの生産量98%(世界のシェア断トツ1位)、ゲルマニウムの埋蔵量41%(シェア2位)であり、対中供給依存度が極めて高い。経産省所管の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC。理事長・高原一郎元資源エネルギー庁長官)の技術供与によってザンビア全土で重要鉱物資源探査を始めたことへの報復であるのは明らかだ。
  筆者の手元にある経産省経済産業政策局作成の『経済産業政策新基軸部会第2次中間整理(2023年6月27日)』の<ミッション③:経済安全保障の実現>に「特定重要物資に関する継続的な見直し(我が国のサプライチェーンの不断の点検、特定重要物資に関する継続的な見直しを実施するとともに、見直しも踏まえた支援策について、基金事業や、事業環境の不確実性に対応するための資本強化等の必要性を検討)」と記述されている。官僚用語は難解だ。要するに、重要鉱物のサプライチェーン(供給網)構築にオールジャパンで立ち向かうという決意表明である。新聞報道では、中国が実施したガリウムなどの輸出規制については「米に対抗」(産経新聞7月30日付朝刊の見出し)が目立った。
 確かに、昨年10月に米商務省が決定した先端半導体とその製造装置・技術の対中輸出規制など米国は対中圧力を強めているため、その対抗措置という指摘に間違いはない。だが中国の習近平指導部は、バイデン政権が強化する対中規制に半導体製造装置先進国の日本とオランダが共同歩調を取るどころか、岸田政権が主導的な役割を担っていると受け止めているようだ。矛先は日本に向けられている。こうした中で、5~6日にサウジアラビア西部のジッダで主要7カ国(G7)とインド、ブラジル、トルコといったグローバル・サウス諸国の安全保障担当の政府高官がウクライナ情勢を巡る協議を行う。どうやら中国の輸出規制問題もバックヤード(裏面)での話題となるようだ。