7月16日号 岸田首相が「電撃訪朝」で狙う10月解散・総選挙

第211回通常国会は6月21日、150日間の会期を終えて、閉会した。まずは、会期末前後に行われた報道4社の世論調査結果を記しておきたい。 朝日新聞調査(6月17~18日実施):内閣支持率前回比4㌽減の42%、不支持率4㌽増の46%。共同通信(同):支持率6.2㌽減の40.8%、不支持率5.7㌽増の41.6%。読売新聞(24~25日):支持率15㌽減の41%、不支持率11㌽増の44%。日本経済新聞(23~25日):支持率8㌽減の39%、不支持率7㌽増の51%。各社調査すべてで岸田文雄内閣の支持率下落、不支持率上昇となった。
 そして支持率と不支持率も逆転した。岸田政権にとって衝撃的だったのは日経調査で支持率が8㌽下がり40%を下回ったことだ。読売調査の支持率15㌽減の第一報に接した首相官邸関係者はわが耳を疑ったという。5月の主要7カ国首脳会議(G7 広島サミット)直後に岸田氏が達成感に浸ったのは遥か昔の出来事のように思える。マイナンバー制度をめぐる収拾不能のトラブルや首相最側近の木原誠二官房副長官に関するスキャンダル報道など岸田政権を取り巻く現状は厳しい。「ジリ貧」から一気に「ドカ貧」に突き落とされた感じすらあるのではないか。現在の胸中が気なる岸田氏は7月に入るや、確たる自信を抱く外交で反転攻勢に打って出た。ロシアの脅威にさらされるバルト3国のリトアニア(首都ビリニュス)で11~12日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。昨年6月のスペイン・マドリードに続き二回目だ。13日にはベルギーの首都ブリュッセルに移動、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のフォンデアライエン委員長との長時間会談は熱量が高く弾んだという。広島サミットにも参加した同氏とは3月に続き6月21日にも電話会談を行っている。
 最近、米ワシントンの外交コミュニティーで「NATO connect」「EU connect」という用語を頻繁に耳にする。各国外交エリートの話題が岸田外交に及べば必ずこの用語が使われるのだ。岸田氏が築いたNATOとEU首脳との密接な関係を示すエピソードといっていい。具体的には、フォンデアライエン氏を筆頭にドイツのショルツ首相、英国のスナク首相、イタリアのメローニ首相、EUのミシェル大統領、そしてNATOのストルテンベルグ事務総長らを指す。ちなみに広島サミット時に岸田氏が個人夕食会を催した相手はスナク氏のみで、フランスのマクロン大統領がご機嫌斜めだったという裏話すらある。
 それはおいても、岸田氏がドイツ元国防相のフォンデアライエン氏と馬が合うのは事実だ。汎EUの視点から対中国、対ロシア政策を推進するフォンデアライエン氏を高く評価している。バイデン米大統領も同氏を称賛する。 他方、同氏は、故安倍晋三元首相発案の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を継承したうえで、中国の「一帯一路」政策に抗して欧州と東・南シナ海、南太平洋を結ぶ広域経済安全保障圏の実現に注力する岸田氏を、「アジアの傑出したリーダー」と評価する。▶︎ 

 

▶︎こうして日EU首脳会談後に発表された共同声明に「日EU戦略対話」創設が盛り込まれた。なぜ、この日EU安全保障パートナーシップ合意が重要なのか。以下に紹介する首相外遊日程が参考になる。 7月16~19日:サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの順で中東3カ国歴訪。首相就任後初めての中東訪問である。イランとの国交回復、ウクライナのゼレンスキー大統領招待などその外交手腕が注目を集めるサウジの実力者ムハンマド皇太子との会談が最重要ミッションだ。中ロ両国首脳と通じる同皇太子と友誼を結べるのか。 8月28日の週:日米韓首脳会議(ワシントン)。この間、緊密な関係を築いた尹錫悦大統領を交えた3カ国トップ会談だ。9月5~7日:第43回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、第18回東サミット(インドネシア・ジャカルタ)。 9月9~10日:第18回主要20カ国・地域(G20)首脳会議(インド・ニューデリー)。昨年のG20議長を務めたインドネシアのジョコド大統領と今年の議長、インドのモディ首相との関係強化を通じて「グローバルサウス」(南半球中心の新興・途上国)諸国を取り込む腹積もりだ。 9月21日前後:第78回国連総会で一般討論演説(米ニューヨーク)。激烈なウクライナ戦況からロシアによる戦術核兵器使用の懸念が強まる中、G7首脳宣言を踏まえて「核兵器のない世界」を国際社会に強くアピールする。年初来の岸田外交を想起すると、中国を念頭に日米同盟を軸に日米韓、日米豪印、日米比の安全保障の枠組み確立に傾注してきた。その延長線上に首相外遊がある。
 さらに岸田氏が射程に入れるのは早期の日朝首脳会談の実現だ。自らが訪朝して北朝鮮による拉致被害者奪還を金正恩労働党総書記と膝詰め談判する意向である。松野博一官房長官は7月3日付韓国紙・東亜日報の「日朝の実務者が6月に水面下で接触」との報道を全面否定したが、シンガポールと中国・瀋陽で両国外務省審議官が接触したのは間違いない。
 加えて昨年10月来、首相腹心の秋葉剛男国家安全保障局長もモンゴルを介して労働党幹部と極秘接触を行っている。そして8月のお盆休み明けの首相訪朝で、横田めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんを母・早紀江さんの元へ連れて帰るというのだ。このサプライズの成否にもよるが、岸田氏は10月初旬に臨時国会を召集・衆議院を解散し、17日公示・29日投開票で総選挙を断行するはずだ。