No.682 9月10日号 岸田文雄首相が目指す「安倍超え」 

9月6日午後(現地時間・日本時間同日夕),岸田文雄首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議出席のため滞在中のインドネシア・ジャカルタ市内のコンベンション・センターで行われた東アジア首脳会議(ASEAN+日中韓)開催直前に中国の李強首相(中国共産党序列2位の政治局常務委員)と約15分間の立ち話をした。焦点の東京電力福島第一原発の処理水海洋放出について,岸田は安全性の科学的根拠と情報公開の原則に基づき国際原子力機関(IAEA)の関与のもとでモニタリング(監視)を継続的に行い,海水の放射性トリチウム(三重水素)濃度が国際基準(放出基準1㍑当たり1500ベクレル未満)より大幅に低かったことを説明した上で,中国による日本産水産物の全面禁輸措置の即時撤廃を求めた。
 一方の李はその場で「核汚染水」という言葉を使わず紋切り型の口調で反論しなかったとされる。それにしても処理水を巡る日中対立の早期打開は容易ではない。しかし,ほんのりした兆しはあった。公明党の山口那津男代表は8月26日夕,「当面の日中関係の状況に鑑み,適切なタイミングではない」と中国側(共産党中央対外連絡部)から同日午後に連絡があり,28~30日の日程で予定していた訪中延期を発表した▶︎

▶︎だが,山口は9月4日午後の岸田との党首会談前,来日中の中国仏教協会の釈永信副会長(中国古来の少林武術の中心地である河南省鄭州市の嵩山少林寺第30代住職であり,中国全人代議員でもある)と会談,釈から処理水問題は「(解決まで)それ程長くかからない」と耳打ちされたという。山口は孫子の兵法「三十六計逃げるに如かず」を想起したに違いない。李強の対応はかすかな期待を裏切るものであったにせよ,中国サイドがこの問題で振り上げた拳の下ろすタイミングを計っているのは事実だ。それを見切っている故に岸田は今秋の衆院解散・総選挙の選択肢を排除していない。
 即ち,11月中旬に米サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議までに北京を訪れて習近平国家主席との首脳会談を実現する可能性を探っている。岸田は年初来,安倍晋三元首相が残した日米豪印4カ国の枠組みQUADの強化に続き,今春に日米比3カ国の枠組みJAROPUSの設置,そして8月の日米韓3カ国の枠組みの制度化に傾注して来た。その上で日中関係の改善を目指しているのである。その実現こそが「外交の岸田」のゴールと自らに課しているのだ…(以下は本誌掲載)申込はこちら