9月16日付 これでは後出しジャンケンだ…内閣改造で透けて見えた岸田首相の「狡猾さ」

9月13日夕、第2次岸田再改造内閣は皇居で認証式を終えて発足した。読売新聞(15日朝刊)3面の見出し「改造 政権浮揚せず―支持横ばい、早期解散自民に慎重論―時期模索、首相経済注力へ」にあるように、報道各社の世論調査結果は期待された内閣支持率上昇はなく政府・与党内に落胆の声が広がった。
 そもそも内閣改造・自民党役員人事による支持率増を期待することにリアリティがなかった。同紙調査(13~14日実施)では支持率前月比±0の35%、不支持率同50%である。日本経済新聞調査(同):支持率前回比±0の42%、不支持率同1P増の51%。「読売」同様に支持は横ばいであり、内閣改造・党人事を「評価しない」49%が「評価する」28%を大きく上回った(「読売」も「評価する」27%、「評価しない」が50%だった)。例外は共同通信社調査(同)だ。支持率が前回比6.2P増の39.8%、不支持率は同10.3P減の39.7%。支持、不支持が拮抗した。同社調査で際立ったのが、2014年に政治とカネの問題で経済産業相を辞任した小渕優子氏の自民党4役である選挙対策委員長起用を「不適切だ」(58.8%)が「適切だ」(29.7%)のほぼ2倍となったことである。
 筆者の相場観で言えば内閣支持率は30%台後半~40%であり、そもそも岸田文雄首相が期待したとすればだが、“目玉人事”と位置付けられた小渕選対委員長でも分かるように、支持率上昇は叶わぬ夢に終わった。筆者の事前予想になかった「サプライズ人事」は2つあった。上川陽子外相(岸田派)と武見敬三厚生労働相(麻生派)だ。正直、林芳正外相(岸田派)に代えて上川元法相を後任に据えたことには驚いた。主要7カ国(G7)のうちフランスのカトリーヌ・コロンナ外相、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相、カナダのメラニー・ジョリー外相、そしてオーストラリアのペニー・ウォン外相も女性だ。遅ればせながら日本に実務に長け且つ国際派の女性外相が誕生したことは嬉しいニュースだった。と同時に、岸田氏の強かさを永田町関係者に見せつけた外相人事でもあった。自民党の麻生太郎副総裁が早くから岸田首相に外相交代を進言していたのは紛れもない事実(林氏が退任を申し出たとの説もある)。同氏の対中スタンスに疑念を抱いていたとされる。加えて、「大宏池会」構想を念頭に置く麻生氏は岸田派座長の林氏が派内で今以上に存在感を強めないようメディア露出が多い外相から外したいということもあったようだ。▶︎

▶︎現下の「3頭体制」の一角を占める麻生氏の進言を容れることで、来年秋以降の長期政権を射程に入れる岸田氏は有力な「ポスト岸田」候補、この場合は総裁派閥継承候補の芽も潰しておくという企図にも適ったのである。実は、この狡猾さは小渕選対委員長(茂木派)起用と相関する森山裕前選対委員長(森山派)の総務会長指名にも窺える。自民党の最高意思決定機関である総務会の責任者に党内反主流派の菅義偉前首相、二階俊博元幹事長両氏に近い森山氏を据えたことは、来秋までの1年間に“万が一の事態”が出来した場合に「貴方が行司役になります」と言ったに等しい。平たく言えば、私はそこまで信を置くのですから貴方も私に従って欲しい――ということであろう。
 次は武見厚労相。入閣が確実視されていた同氏は外交・安全保障政策に自負があり、外相、防衛相のいずれかを望んでいた。それが厚労相である。第一報に接した同省幹部は仰天した。自民党農林部会長、衆院農水委員会筆頭理事経験がありJAも支援する宮下一郎農水相誕生を横目で見ていただけに、日本医師会全面支援で且つ武見太郎元日本医師会会長の子息である武見氏が我が大臣とは、改めて守旧型自民党の選挙基盤を押し込まれたと同省官僚は感じたのである。同氏には24年予算編成で社会保障問題の肝である診療報酬と介護報酬の改定が待ったなしで控えている。再改造内閣発足と同時に、永田町・霞が関では早くも初入閣の“問題大臣”の名前が取り沙汰されている。「失言」大臣有力候補は土屋品子復興相(衆院当選8回・無派閥)、加藤鮎子少子化相(3回・谷垣グループ)、盛山正仁文部科学相(5回・岸田派)である。なぜ土屋氏は復興相なのか。答弁で「処理水」を「汚染水」と言い違うのは必至とされる。被災地・宮城選出の伊藤信太郎環境相(7回・麻生派)が復興相であり、土屋氏が環境相であれば「父娘環境相」で話題を取れたはずという声が多い。このミスマッチは措くとして、内閣改造・党役員人事は岸田氏の狡猾さが透けて見える。その一例は後出しジャンケンの極みである。首相最側近の木原誠二官房副長官は首相が慰留したが本人が強く固辞したとして退任し、一拍を置いて後に自民党幹事長代理就任が明らかになった。
 さらに同氏は政調会長代理にも就任する。要するに大っぴらに首相と会うことはないが、首相官邸と自民党執行部のリエゾンを木原氏が担うということなのだ。
 最後に指摘しておくべきは、10日夕の岸田首相記者会見発言である。「新しい体制が発足したならば、発足直後からスタートダッシュしていきたい、臨時国会等の政治スケジュールについては新たな体制で思い切った経済対策を作り、これを早急に実行していくこと、これを最優先して日程について検討したい」――。一気に突っ走ると言っているのだ。要は、23年度補正予算成立後の10月下旬(11月初旬)衆院解散し、①11月14日(大安)公示・26日(大安)投開票、②11月21日(赤口)公示・12月3日(赤口)投開票、③11月28日(先勝)公示・12月10日(先勝)投開票の3パターンが想定される。こうした年内総選挙の確率は60~70%とみる。