No.685 10月25日号 岸田政権は「企業内部留保」にメスを

《「低物価・低賃金・低成長のコストカット型経済」から「持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済」への変革です。「コストカット型経済」からの完全脱却に向けて,思い切った「供給力の強化」を,3年程度の「変革期間」を視野に入れて,集中的に講じていきます。<中略>私は,断じて後戻りは許さない。変革を力強く進める「供給力の強化」と不安定な足下を固め,物価高を乗り越える「国民への還元」。
 この2つを「車の車輪」として総合経済対策を取りまとめ,実行してまいります》とした上で,続くパラグラフに《さらに,賃上げ税制を強化するための減税措置や,戦略物資について初期投資だけでなく投資全体の予見可能性を向上させる過去に例のない投資減税,特許などの所得に関する新たな減税制度,人手不足に苦しむ中堅・中小企業の省力化投資に対する補助制度をはじめ,抜本的な供給力強化のための措置を講じていきます。突発的なエネルギー価格の高騰に備え,省エネ・脱炭素投資の更なる拡大を図ります》と記述されている――。岸田文雄首相が10月23日,第212回国会で行った内閣総理大臣所信表明演説(A4版20頁)冒頭の「2,経済・経済・経済」にある件である。岸田首相は新たな経済対策の策定を指示した9月26日の閣議で「成長の成果である税収増を国民に適切に『還元』すべき」と述べ,具体的に「賃上げ税制の減税制度の強化を検討」と「戦略分野の国内投資促進や特許などの所得に関する減税制度の創設,ストックオプションの措置の充実の検討」を指示していた。

そもそも「する,しない」と花占いのような状況の続いた所得税減税を巡る政府・与党のやり取りの中で,岸田が突然(10月20日),自民,公明両党幹部に期限付きの所得税減税と低所得者向け給付金の検討を指示したことからも,その迷走ぶりが分かる。経済対策が選挙目当てのバラマキとの批判が絶えないが,岸田は「供給力の強化」と「国民への還元」を二本柱とする経済政策のメッセージが届かないことに切歯扼腕している。物価高で苦しむ国民への生活支援と言うなら,ガソリン・灯油や電気・ガス料金への補助延長や低所得世帯に対する1世帯7万円を支給する案が急浮上しているが,この方がスッキリしている。そうした支援策に加えて所得税減税を打ち出したのは,「増税メガネ」といったSNSなどでの批判に一矢報いたいという岸田の思いが強く表れている。さらに名目経済の拡大に伴う税収増の国民への還元という思いがある。
 この部分が伝わらないのは財政危機キャンペーンの手のひらで踊る多くのメディアが,税の自然増に焦点を当てないからだ。2022年度の政府税収は71.1兆円と過去最高となった。うち所得税は22.5兆円とコロナ禍前の19.2兆円と比べて3.3兆円も増えている。その部分を納税者に還元してもバラマキに当たるまい。問題は過去の所得税減税は景気浮揚に役立ったかだが,残念ながら答えはノーである。98年に橋本龍太郎政権は,納税者1人当たり最高5.5万円,扶養者1人当たりその半額の税額控除を実施した。一方,小渕恵三政権は翌99年に所得税の20%,住民税15%の税率を引き下げる「定率減税」を実施した。98年の所得税減税は期限付きか恒久減税かを巡って橋本発言が二転三転したことが国民の不信を招き,98年7月の参院選で大敗,首相退陣を余儀なくされた。所得税減税は効果が乏しく,政権にとっても鬼門である…(以下は本誌掲載)申込はこちら