11月4日付 岸田総理、唐突感いっぱいの「首相表明」その思惑…年内「衆院解散・総選挙」の可能性はほぼ潰えたが

日本経済新聞とテレビ東京の合同世論調査(10月27~29日実施)の内閣支持率が一昨年10月の政権発足後、最低の前回比9㌽減の33%、不支持率は最高の8㌽増の59%となった。これは、岸田文雄首相が胸中に秘めて来た年内の衆院解散・総選挙断行の可能性がほぼ潰えたということを意味する。 
 筆者はこの間、一貫して年内解散総選挙―しかも12月12日公示・24日投開票の「クリスマス選挙」―があり得ると書いてきた。ところが、先週末に会った自民党有力者と首相官邸幹部は口をそろえて内閣支持率下落も然ることながら国会日程の窮屈さを挙げて、年内の衆院選実施に否定的な見方を示したのである。先ず、今国会日程に言及したい。岸田氏が描く政権浮揚策は、11月2日に閣議決定した「物価高対策」と「賃上げ」に傾注する総額17兆円規模の総合経済対策だ。その絡みで言えば、焦点である補正予算概算が決定された2023年度補正予算案(一般会計で約13.1兆円)は同20日に国会提出、鈴木俊一財務相の財政演説後に衆参院予算委員会を3日間ずつ開き(休日の23日を含め)下旬の28日ごろに成立する見込みである。成立のお尻が詰まっているのは、実は岸田首相の外交日程に関係する。岸田氏は12月1日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれる国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)首脳会合に出席・演説する。0泊3日の強行日程である(未公表)。11月15~17日に米サンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議、12月16~18日に東京で開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)特別首脳会議の中間点と、岸田官邸は位置付けている。
 従って、超強行軍を余儀なくされるのだ。因みに、首相は3日からマレーシア、フィリピン2カ国を歴訪する。このような国会・首相日程を目のあたりにすれば、「年内選挙」は確かに無理だと思わざるを得ない。事実、岸田氏を支える自民党の麻生太郎副総裁は石川県の地方紙・北國新聞(10月29日付)一面掲載のインタビューで、次のように述べている。《私自身、岸田総理の口から『解散したい』という話を聞いた記憶はありませんよ。<中略>解散の可能性を考える必要があるのは確かですが、「今か」と言えば、物理的になかなか難しいのではないでしょうか》。▶︎

▶︎では、23年度補正予算成立後の11月下旬に衆院解散は絶対あり得ないのか。先の官邸幹部は「成立直後解散の12月12日公示・24日投開票は物理的にやれないことはありません。 しかし選挙後に首班指名などの特別国会を召集すると、越年国会になり年末と年明けを騒然としたなか迎えることになります。リアリティがあるとは思えません」と筆者にクギを刺した。要するに、選挙に関する決め打ちの予測報道はミスリードのリスクが大きいと、親心からの助言だったに違いない。反論ではない。
 だが一点だけ、記しておきたい。筆者は長年の政治取材・報道の節目で「政治的勘」を軽視しなかった。解散のタイミングは二律背反の趣きがあるのだ。解散が「ある、ある」という時は概して、ない。「ない、ない」という声が優勢になると、時の権力者は突如打って来る。そして政権党が勝つことが多い。予測というものは、当たっても、外れても、理屈は後付である。結果が出る前は「勘」としか言いようがないのだ。それこそ理屈だと言われるに違いない。
 では、かくも綴ってきて何を言いたいのかと突っ込まれそうだ。そう、唐突感いっぱいの首相表明のことだ。岸田氏は10月26日午後、官邸での政府与党政策懇談会で1人当たり計4万円の所得税と住民税の定額減税を来年6月に実施すると表明した。では、この所得税減税は突然降ってわいたのかと言えば、答えはノーである。実は、岸田氏は8月中旬に「(外交に全力投球した今年前半も終わり)そろそろ原点に戻って、これからは経済、経済、経済で行こう」と語っていたのだ。その後、最側近の木原誠二自民党幹事長代理らと協議を重ね捻り出したのが「所得税減税」と「給付金」の抱き合わせだった。それは「政治的勘」から生まれた。但し、同氏の知見と経験に基づくものであり、筆者のそれとは明らかに異なるものである。