日本銀行(植田和男総裁)は10月31日に開催した金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の再修正を決めた。「長期金利の上限は1.0%を目途とし、上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する」(日銀発表文)。この間の金利上昇と円安が想定外であったにせよ、7月28日の政策決定会合に続く日銀の「2度目修正 甘い見通し」(産経新聞11月1日朝刊の見出し)と言うべきだろう。
今回のYCC再修正について、在京米国人金融アナリストのジョセフ・クラフト氏は次のように指摘する。「事前の一部新聞リークもあり中途半端なYCC柔軟化よりも、2024年度CPI(消費者物価指数)見通しの1.9%から2.8%へ大幅上方修正の方がビッグニュースです。日銀は来年も今年並みのインフレ圧力が続くと見ており、今後の政策修正の布石を打った。12月会合でマイナス金利解除の可能性が高まったと思います。それはYCCの上限を目途にしたことで撤廃の優先順位が後退したことを意味します。植田総裁会見後に東京外為市場が円売りに転じたのとは逆に国際市場では金利が上昇したのはインフレ見通しの大幅引き上げに伴う今後の政策修正を織り込んだからではないですか」。▶︎
▶︎この説明に得心する。加えて、現下の「政治の季節」と無関係ではない。円にとって重要なのは実質金利差であるが、植田総裁は記者会見で政治的配慮もあり、日銀がマイナス金利政策解除に向けた正常化に近づいていることを示唆する発言をしなかった。
すなわち、今やその可能性は殆どなくなった感が強いものの、「12月総選挙」にも細心の気配りをしているのだ。日銀の政策決定会合と同日に東京・永田町の自民党本部で政務調査会全体会議が開かれた。11月2日には岸田文雄政権の17兆円規模の総合経済対策が閣議決定した。政調全体会議で配布された新たな総合経済対策案に「政府は、引き続き、日本銀行と緊密に連携し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長に向け、一体となって取り組んでいく」と記述されているのだ。まさに岸田首相が物価高に怒る国民をいさめるべく財政刺激策を作成中だったのだ。この「政治の季節」に、日銀は国民の怒りの根源であるインフレ抑制のために政策修正などできるはずがない。