11月11日付 ジョー・バイデンの迷走が止まらない!アメリカ大統領なのに世界を牽引できないという事実

「世界最強国アメリカ」のジョー・バイデン大統領が、得意のはずの外交で迷走している。指摘するまでもなく、世界の耳目を集めるイスラエルとイスラム武装組織ハマスの戦闘の果てしないエスカレーションが続く中で、「人質の解放と一時停戦」実現に向けてリーダーシップを発揮できないでいる。ハマスの殲滅を公言するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にパレスチナ自治区ガザを巡る戦闘を人道的見地から一時停戦するよう説得してきたが、ネタニヤフ首相は最後まで同意することはなかった。バイデン大統領の最側近であるアントニー・ブリンケン国務長官はこの間、イスラエル及び国境を接するエジプト、サウジアラビア、ヨルダンなどアラブ諸国訪問を繰り返し、「バイデン外交」を担ってきたが、こちらもまた不調に終わった。その後、ブリンケン氏は11月7~8日に東京・麻布台の飯倉公館で開かれた主要7カ国(G7)+欧州連合(EU)外相会合に出席し、5日のイスラエル軍歩兵・機甲部隊による地上作戦で南北に分断されたガザ地区がさらなる人道危機状態に陥る可能性について言及、G7 + EUが結束してイスラエルに強く申し入れることを求めた。
 だが、上川陽子外相が議長を務めた同会合は、イスラエルに対して国際法に沿った対応を求めたのに加えて、G7+EUの総意として現下の戦闘の「人道的休止(humanitarian pause)」と「二国家(イスラエルとパレスチナ自治政府)解決」実現に向け、緊密に連携していくと表明するにとどまった(注:これまで各メディアはpauseを「中断」と表記してきたが、11月から外務省が訳語を「休止」に統一したので筆者も「人道的休止」と記述する)。
 いずれにしても、バイデン氏の国際社会における存在感が低下したのは否めない。そうしたなか週初めの5日、ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官がイスラエルの首都エルサレムを電撃訪問し、ネタニヤフ氏や対外情報機関モサドのデビッド・バルネア長官らと協議した(米紙ニューヨーク・タイムズのスクープ)。バーンズ氏は、人質を巡るハマスとの裏交渉で重要な役割を果たしたカタール、エジプト、ヨルダンなども訪れたが、各国首脳や情報機関トップとの協議詳細は明らかになっていない。ではなぜ、CIA長官なのか。▶︎

▶︎もちろん、理由がある。バイデン氏は政権発足に当たり、バーンズ元国務副長官を外交官出身で初となるCIA長官に指名し、米議会関係者を驚かせた。国務省生え抜きの同氏の初任地はヨルダンであり、アラビア語に加えてロシア語、フランス語にも堪能。
 そして華麗な外交官キャリアを持つ同氏だが、「スパイマスター」(情報機関のトップ)としてもバイデン氏の期待に応えているのだ。ロシアのウクライナ侵攻前年の11月にモスクワを隠密裏に訪問。ウラジーミル・プーチン大統領の最側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記と会談、軍事侵攻の断念を説得している。説得は不調に終わったが、「スパイマスター」である同氏が外交・安全保障領域にも関与していることを、後に知った先進各国の外交責任者を驚かせた。同氏は今年2月の米海軍戦闘機による中国偵察気球撃墜で極度に緊張が高まった米中関係を緩和するため、5月初めに北京を訪れて中国情報機関のトップである陳一新・国家安全部部長との秘密協議を通じて一触即発を回避している。そのバーンズ氏がイスラエル訪問後、先にイスラム組織ハマスに拉致された240人超のうち外国籍保有者4人の解放を仲介したカタールの首都ドーハを訪れたことを看過すべきではない。
 同国のムハンマド・サーニ首相との間で得意のアラビア語を駆使してイスラエル・ハマス戦闘の「人道的休止」実現に向けて仲介を依頼したのは間違いない。 今や薄氷を踏む「バイデン外交」は、「プレイングマネジャー」でもあるバーンズCIA長官の双肩にかかっていると言っても過言ではない。そしてイスラエルは9日、「毎日4時間の戦闘休止」に同意したのである。“バーンズ効果”なのか分からないが、とりあえずバイデン氏は今週末はゆっくりできるはずだ。