岸田文雄政権は11月10日、経済対策の裏付けとなる2023年度補正予算案13.1兆円を閣議決定した。岸田首相が低迷する内閣支持率打破のため起死回生とばかりに投じた事業規模37.4兆円の総合経済対策の目玉である所得税減税と給付金そのものが悪評嘖々である。 最新の産経新聞とフジテレビ(FNN)の合同世論調査(11月11~12日実施)の内閣支持率は前回比7.8P減の27.8%、不支持率が同9.2P増の68.8%である。
そして衝撃的だったのはNHK調査(同10~12日)の数字である。支持率7P減の29%、不支持率8P増の52%。何とNHK調査も支持率が30%を下回ったのだ。先週末までの各社調査に追い打ちをかける支持率急降下となった。すなわち、TBS(JNN。同4~5日):支持率10.5P減の29.1%、不支持率10.6P増の68.4%、共同通信(3~5日):支持率4P減の28.3%、不支持率4.2P増の56.7%である。支持率が「30%」を切ったのは時事通信(10月6~9日)26.3%、毎日新聞(同14~15日)25%、朝日新聞(14~15日)29%、テレビ朝日(ANN。28~29日)26.9%に加えて8社となった。因って、読売新聞(10月13~15日):支持率前回比1P減の34%、不支持率1P減の49%、日本経済新聞(同27~29日):支持率9P減の33%、不支持率8P増の59%―の2社だけが支持率「30%」を上回る。こうして岸田内閣支持率の相場観は、29%(NHK)%+28.3%(共同)+29%(朝日)÷3=28.8%と言える。このトレンドは恐らく所得税・住民税減税が実施される来年6月頃まで続くと見ていい。
だが本稿では、国民の関心がなかなか向かわない総合経済対策の具体策を公正に評価したい。筆者が注目したのは、経済対策の前提となる基本的な考え方「経済産業政策の新機軸」である。「産業政策」と言えば、1980年代末から90年代初頭に対日貿易赤字解消を求めたブッシュ(父)米政権の通商代表部(USTR)主導で始まった日米構造協議(SII)を想起する。全ては日本の「政・官・民癒着のトライアングル」に起因すると「日本異質」論が噴出し、その後の90年代後半のクリントン政権下で展開された日本叩き(ジャパン・バッシング)のトリガー(引き金)となった。▶︎
▶︎しかし、時代は大きく変わった。今や米国も官は民を邪魔しないことに徹する新自由主義的政策でもない、社会・経済課題解決に向けて、官も民も一歩前に出て、あらゆる政策を総動員する新たな産業政策をその枠組みにまで遡って検討する必要があるという理解に至った。
要するに、政府が積極的に介入することで民間投資・イノベーションを促すことの効果を認めているのだ。事実がそれを証明している。経済産業省が経済産業政策の新機軸を打ち出したのは2年前の2021年11月。そして今年の9月、同省の西川和見官房参事官(経済安全保障担当)が訪米し、ホワイトハウスで米国家安全保障会議(NSC)のタルン・チャブラ技術・安全保障担当上級部長と経済安全保障問題について協議した。その際に日米の産業政策連携を提案されたというのだ。まさに隔世の感がある。兆しはあった。バイデン大統領が22年8月に署名・成立したインフレ削減法(総額4330億㌦=約58.5兆円)には気候変動対策からEV(電気自動車)税額控除に国内(北米)組立要件、水素製造装置税額控除に実勢賃金・CO2排出基準要件まで盛り込まれていた。その後の今年6月に発表した「国内発明・国内製造(invent it here, make it here)」政策も言わば産業政策である。
こうした流れは今夏以降、欧州連合(EU)主要国のドイツの成長機会法制定やフランスのEV補助金制度の変更などに継承されている。日本の先駆的な経済産業政策はミッション志向の社会・経済課題の解決を目指して進められてきたのだ。それは、GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)を核とする8分野での国内投資拡大のための官民連携であり、その具体策がきちんと総合経済対策に盛り込まれている。 岸田首相は米サンフランシスコで15~17日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席後の17日、同地シリコンバレーのスタンフォード大学で行われた討論会でも10年間に20兆円の国費を投じ、150兆円の官民投資を集める意向を改めて発言した。国内で不評の経済対策をシリコンバレーの投資家や起業家はどう評価するのだろうか。