英誌「The Economist」。世界で最も影響力がある週刊誌である。その最新11月18‐24日号に掲載された日本経済についての2本の記事が、かくも本質を衝いているのには舌を巻きました、と首相官邸幹部からメールを頂いた。早速、エコノミスト誌を購入して読んだ。同誌の英語は他の英文媒体と比べて難しいというのが定評であるが、当該記事の英文は平易であり、英語に不案内な筆者でも概略を掴むことができた。
それでも助っ人として和訳アプリDeepLの助けを借りて再読した。短文記事「Will Japan rediscover its dynamism? – Rising prices and animal spirits give it a long-awaited opportunity(日本はダイナミズムを再発見できるか?物価上昇とアニマルスピッリツが待望のチャンスをもたらす)」は以下のような書き出しから始まっている。<世界の投資家たちは再び日本に熱狂している。ウォーレン・バフェット氏はこの春、10年以上ぶりに東京を訪れて、日本企業へのエクスポージャーを提供する5大商社の大型株を保有した。先月、世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOも日本の首都の巡礼に加わった。彼は岸田文雄首相に「歴史は繰り返される」と述べ、この瞬間を1980年代の日本の「経済の奇跡」になぞらえた。11月15日に発表されたGDP(国内総生産)の数字が期待外れだったとしても、投資家の楽観的な考えを損なうことはないだろう(筆者注・前期比年率で1年ぶりのマイナス成長となった)>。同記事は、最近の「約束された夜明け」は何が違うのだろうと問い、2つの外的ショックと2つの内的シフトが重なり、日本経済の状況は一変したとして、最も顕著な例に物価を挙げている。そして記事はこう続く。<賃金についてどう考えるかが変わった。狭い道ではあるが、賃金と消費の健全な成長のサイクルへの道が開かれたのである>。
しかし、日本経済の中核が依然として変わらず、変わろうとしていないと厳しいが、世代交代は進みつつあるとも指摘する。優しいまなざしで公正かつ的確な日本経済の変遷と現状をリポートしている。The Economist誌は無署名記事が原則。この記事はノア・スナイダー東京支局長の手になる。▶︎
▶︎筆者は、同氏の父、ダニエル・スナイダー元スタンフォード大学アジア太平洋研究センター(APARC)共同副所長(現同大学講師)とは40年来の友人であり、スナイダー父子ともに付き合いがある。さて、この記事に触発された筆者は「約束された夜明け」を求めて取材を進めた。行き着いたのは、信を置く日本経済新聞の滝田洋一特任編集委員の分析だった。同氏の賃金と経済成長の目標値「4・3・2・1」理論は、4%:来年春闘の賃上げ目標、3%:名目経済成長率目標、2%:日銀の物価目標、1%:岸田政権の潜在成長率目標を表している。同氏の説明はクリアだ。日本の名目GDPは24年度に600兆円に乗せるので、名目で3%成長すれば600兆円×3%=約20兆円になる。付加価値が毎年20兆円増える勘定になり、この20兆円を家計、企業、政府で分かち合えばよいのではないかというのである。得心。
いずれにしても、スナイダー氏の記事に勇気づけられたのは確かだ。さらにウクライナ戦争や米中の大国間の対立は、重要産業への新たな投資の波と、日本が恩恵を受ける可能性のある地域のサプライチェーンの再構築に拍車をかけたと指摘する。一方の長文記事「Is Japan’s economy at a turning point? – Wage and price inflation is coinciding with an exciting corporate renewal(日本経済は転換期にあるのか?―賃金と物価インフレは、エキサイティングな企業再生と同時進行している)」では、経済学者の青木昌彦元スタンフォード大学名誉教授(故人)から話を始めている。<青木氏は、1990年代初頭に始まった「失われた数十年」からの脱却には30年かかるだろうと予測した。アセットバブルが崩壊し、日本が急成長したモデルが終焉すると、国は富裕なままでありながらデフレに陥り、成長率は鈍化した。青木氏は新しいモデルを結集するには世代交代が必要だと考えていた。
そしてバブルが決定的に崩壊し、長らく政権を握っていた自由民主党が初めて権力を失った1993年をその起点にした>。そう。こちらの記事は、青木氏の分析を踏まえて日本に求められる構造改革論を展開しているのだ。紙幅に限りがあり詳細は省くが、著者は、日本の若い起業家たちが新しい「日本株式会社(Japan Inc)」を築くべく努力していると、熱いエールを送る。