岸田文雄首相は12月5日午前、東京・大手町のフォーシーズンズホテル東京大手町で開催された国際会議「GZEROサミットジャパン2023」で講演した。 「Gゼロの世界」を提唱するのは名高い米政治学者であり、調査会社ユーラシア・グループを率いるイアン・ブレマー氏である。同氏のイニシアチブで「Gゼロサミット」が開かれるのは今回で7回目だ(そのうち2020、21年はオンライン)。岸田首相は講演冒頭、次のように語りかけた。<世界は今、「歴史の転換点」に直面しています。ロシアによるウクライナ侵略の継続、イスラエル・パレスチナ情勢の緊迫化、米中による技術覇権をめぐる競争。インフレは、我が国を始め世界中の市民生活に困難を与えています。
そうした中で、アメリカ大統領選はもちろん、アジア、欧州において重要な選挙が予定されており、2024年は、国際政治において、「今後10年の分かれ道(crossroad)」となるでしょう>。 首相スピーチは平易な文章にまとめられている。と同時に、重要なポイントをきちんと押さえている。すなわち、岸田氏は講演の後半で世界的な選挙イヤーである24年を控え、こう述べたのである。 <「FOIPのための新たなプラン」の具体化に向け、私は、本日、この場で、「グローバルサウス『未来産業』フラッグシップ・プロジェクト構想」の立ち上げを、表明いたします>。この「FOIP」とは、「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)」の頭文字である。外務省が今年3月に作成した『「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプラン』(A4版62頁)を参照して説明する。同資料で最も興味深いのは、「新たなプラン」として示された4つの柱のうちの「取組の柱③:多層的な連結性」であり、その中でも「事例㉙:ベンガル湾からインド北東部を繋ぐ産業バリューチェーンの構築」と、「事例㊴:インド太平洋地域におけるグリーン海運回廊」である。▶︎
▶︎何が言いたいのか――。前者から説明したい。インドも「インド太平洋海洋イニシアチブ(IPOI)」を提唱するが、その連結性の柱のリード国は、実は日本である。日印両国にバングラデシュを加えた同地域の連結性インフラ(ソフト、ハード)の開発強化を推進する。
そして後者は、日米豪印(Quad)4カ国の枠組みで合意をみたグリーン海運回廊の開設を目指すものだ。具体的にはゼロエミッション船(水素・アンモニア)の技術開発・普及と、港湾におけるサプライチェーンの脱炭素化のためのカーボンニュートラルポート(CNP)の造成である。各々の地域の地図を見ると気づくが、まさにこうした多層的な連結性実現に向けた取組は、中国の広域経済圏構想「一帯一路」のいわば「日本版」と言えるのではないか。事実、岸田氏は講演の中で以下のように語っている。<意欲あふれる日本の企業が、米国をはじめとした同志国の企業とともに、グローバルサウスにて、最先端のビジネスモデルを生み出す。そして、世界中で課題解決に貢献し、信頼と存在感を勝ち取っていく。ひいては、国際経済秩序の安定化にも繋がっていく。官民が連携したフラッグシップとなるべきプロジェクトを、いくつも作り出してまいります>。
要するに、岸田氏は中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想を強く意識しているのだ。それは同氏講演の冒頭で、分断と協調が複雑に絡み合う時代に日本ができることは何でしょうかと、語りかけたことからも分かる。岸田政権にとって2024年の外交・安全保障の主要課題はやはり対中政策ということである。因みに岸田氏は国際会議「Gゼロサミット」翌日の6日午後、イアン・ブレマー氏と首相官邸で約40分間会談している。