前回コラムで日本銀行(植田和男総裁)は12月の政策決定会合(18~19日)でマイナス金利(NIR)の解除に踏み切らず、来年1月の同会合で解除を決定するはずと書いた。筆者は競馬の予想屋ではない。予想が当たった、外れたと言うつもりは毛頭ない。
だが、ただ一つだけ言っておきたいことがある。それは、植田総裁や氷見野良三副総裁など日銀幹部の記者会見や講演での発言を具にチェックし、そこに今後の政策修正となるヒントが隠されているのではないかと、懸命に探ることの大切さだ。そこで日銀ウォッチャーではない筆者は、金融アナリストのジョセフ・クラフト氏の助言を得た。19日に植田氏が発表した声明文を、過去2回(9月22日と10月31日)の政策決定会合時の声明文と比較・検証してみたのだ。そこにヒントがあった。とりわけ、植田総裁が重視してきた「2%物価安定目標」に関する発言の微妙な変化に注目する。9月の声明文に「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく」とあった。この英語表記は“will aim” である。10月の声明文には「消費者物価の基調的な上昇率は、見通し期間終盤にかけて2%の物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくと見ているが、<後略>」とあり、英語表記は“expect”だ。▶︎
▶︎そして12月の声明文。「この間、消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくと考えられる」こちらの英語表記は“is likely”である。will aim→expect→is likelyと、確かにニュアンスが強まっている。 こうして並べてみると、植田氏の「2%の物価安定目標」達成への自信が徐々に強まっていることが理解できるはずだ。
では、なぜ植田日銀は今回、市場関係者が織り込み済みのマイナス金利政策の早期解除観測を見送ったのか。政治マターと無関係ではない。東京地検特捜部が政治資金パーティー収入裏金疑惑で自民党安倍派、二階派事務所の家宅捜索に踏み切ったのは19日。あたかも狙いすましたように政策修正を行えば、安倍派の混乱の間隙を衝いたと受け止められるからだ。それだけではないが、政治配慮があったのは確かである。いずれにしても筆者は1月会合(22~23日)でのNIR解除に賭ける。