自民党の麻生太郎副総裁の訪米(1月9~13日)が日米外交関係者の間で密やかな話題となった。だが、首都ワシントンとニューヨークを訪れた麻生氏に同行したのが読売、朝日新聞、共同、時事通信の4社のみもあってか、大きなニュースにならなかった。「麻生氏は1月中旬までに訪米し、ドナルド・トランプ前大統領と会談する」と、筆者が主宰する情報誌「インサイドライン」(12月25日発行)で書いたこともあり、麻生氏訪米は外交筋の注目を集めていた。岸田文雄首相が何事につけ頼りにする麻生氏はなぜ、この時期にトランプ氏と会談するのか。岸田首相は自民党大会前の3月上旬に訪米し、ジョー・バイデン大統領と会談する。現時点で、11月5日に行われる米大統領選は現職バイデン氏と前職トランプ氏のガチンコ勝負となる公算大である。麻生氏訪米の意図はいったい何だったのか、と揣摩臆測が外交専門家の間で飛び交った。国賓待遇による首相訪米に向けた環境整備のためだけだったとは考えられない。結果的に麻生氏はトランプ氏との会談は実現しなかった。だが、同氏の婿であるジャレッド・クシュナー元大統領上級顧問主催の夕食会に招かれたようだ(トランプ氏の娘イバンカ夫人も同席)。▶︎
▶︎注視すべきは、誰がなぜ、このタイミングで麻生、トランプ両氏の会談を仲介したのかである。麻生家が日本有数の名門であることは周知の通りだ。母方の祖先は明治維新の中心となった大久保利通→牧野伸顕伯爵→吉田茂首相夫人雪子→同夫妻の三女和子が麻生氏の母。父方の祖先は九州石炭財閥の曽祖父麻生太吉→祖父・初代太郎→麻生セメント会長・多賀吉が麻生氏の父。
実は、麻生家は米名門のロックフェラー一族と深い関係がある。現当主のジョン・“ジェイ”ロックフェラー4世(元米上院議員)と麻生氏は極めて親しい。国際基督教大学(ICU)に3年間留学した同氏は大の親日家だ。そして長男のジョン・D・ロックフェラー5世が、クシュナー氏の要請を受けて仲介の労をとったというのである。まさに「奥の院外交」ではないか。
ところで麻生氏は10日午前、ワシントンの大統領・議会研究センター(CSPC)で、英ロンドン大学仕込みのべらんめえ調英語で講演した。そのキーワードは「ノブレス・オブリージュ」(高い社会的地位には義務が伴う)であった。大国の米国にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)復帰を促したのである。バイデン氏ではなくトランプ氏を念頭に聴衆に問いかけたのだ。