岸田文雄首相(自民党総裁)を本部長とする自民党の政治刷新本部は1月25日、批判の集中砲火を浴びた派閥に関し「金と人事からの決別」を含む政治改革の中間とりまとめを決定した。ここに至る過程で永田町に激震が走ったのが、1月18日夜の岸田氏による突然の「岸田派(宏池会)解散」表明だった。事前の相談がなかった麻生太郎副総裁は同夜遅く岸田首相の携帯電話を鳴らし「こちらは逮捕も起訴もありませんので、派閥を続けますよ」と言い放ち、不快感を隠さなかった。岸田氏は翌19日午前、記者団に対し「宏池会を解散すると申し上げたが、他の派閥のありようについて何か申し上げる立場にない」と述べ、事実上、党内第2派閥の麻生派存続を容認した。これを受けて岸田政権を支える「三頭政治」の一人である茂木敏充幹事長も第3派閥・茂木派存続意向を明言した。
一方、東京地検特捜部による政治資金規正法違反事件(不記載・虚偽記載)捜査の標的となった最大派閥の安倍派、第5派閥・二階派の両派は同じ19日、それぞれ総会を開き、派閥解散を決めた。こうした派閥解散ドミノによって形式的に岸田派(第4派閥46人)、安倍派(96人)、二階派(38人)、森山派(第6派閥8人)の合計188人が無派閥となった。もともとの無派閥議員124人を合わせると312人。だが、実態はそう単純ではない。派閥存続の麻生派(55人)、茂木派(52人・1月27日時点)両派107人との対立構図にならない。解散した安倍派の一部が麻生派に入りする可能性が浮上しているのだ。その解を探るためにこれまでの経緯をゴルフに例えてみたい。名門「自民党ゴルフ倶楽部」の難コースで知られる6番ホール(距離380㍎・パー4)でのプレーを想定する。ラウンドするのは岸田、麻生、茂木、二階氏の4人だ。ハンディがシングルの麻生、茂木両氏は自ら手動カートを引く。それほど上手でない岸田氏と老齢の二階氏にはキャディさんがつく。最年長は二階氏だが、倶楽部メンバーである麻生氏に最初のティーショットを譲った。想像できると思うが、入魂のドライバーショットはフェアウェイ左端をキープ。200超㍎のスーパーショットだった。2オン・1パットのバーディー狙いは明らかだ。見栄えを重視する同氏の本領発揮である。
次は二階氏。手にした5番ウッドで130㍎超だが、第2打を考えた狙いどおり。グリーン右手前と右側にバンカーが2つあるので、刻みのゴルフの同氏は4オンで御の字とばかりに次の次を打つ地点まで目測している。トリプルボギーだろうがスコアは気にしない。3番目にティーグラウンドに立ったのは茂木氏。コースマネジメントが頭に入っているので同伴者に合わせたプレーをする。麻生氏がバーディーであれば自らもバーディーを取りに行く。パーに終われば、グリーンまわりで調整してパープレーに徹する。そういうゴルフスタイルなのだ。さて、真打ちの岸田氏だ。最初からキャディに相談する。ドライバーか、曲がりの少ない3番ウッドかで迷う。意を決しドライバーを選び180㍎近く飛んだが、フェアウェイを右に外し深いラフ。第2打はキャディに渡された5番アイアンが奏功し、グリーンまで残り50㍎。3オンが目前となり、パーも夢ではない。だが、バンカー越えが立ちはだかる。入れたらパーは見果てぬ夢となる。ボールを高く上げなければ越えれぬとサンドウェッジを手にしたが、ピッチングウェッジを力まず振り抜けば楽に越えるとのキャディの助言を入れた。しかし力み過ぎてあえなくバンカーに。何とかグリーンに乗せたのは5打目だった……。さて、この例え話の絵解きである。▶︎
▶︎岸田氏のキャディは首相最側近の木原誠二幹事長代理である。同氏は件の政治刷新本部幹事長でもある。キャディの助言により難所のバンカー越えで力が入りミスショットを招いたことは、「岸田派解散」という乾坤一擲の決断を指す。先行き見据える麻生、茂木、二階各氏は終始、我流のプレーに徹していたのである。岸田氏のチャレンジを国民はどう受け止めたか。読売新聞の世論調査(1月19~21日実施)によると、岸田派解散を「評価する」が60%で「評価しない」の29%を上回った。しかし総裁直属機関として設置した政治刷新本部に「期待できる」は17%にとどまり、「期待できない」が75%に上った。
実際、内閣支持率は前月比1㌽減の24%、自民党支持率が同3㌽減の25%と、数値は冷酷にも岸田氏のチャレンジが不発に終わったことを示している。通常であればこの先のトライはない。だが岸田氏は通常とは異なる、次なる一手を用意していた。「政治と金」問題を再燃させた安倍派積年の「裏金化システム」が元凶だとして政治責任をとることを求め、同派座長の塩谷立・元文部科学相、高木毅前国会対策委員長ら歴代事務総長経験者ら幹部に「離党勧告」を突きつけるというのだ。企図するところは分からなくはない。
しかし、今問われているのは自民党の金権体質そのものである。にもかかわらず、「中間とりまとめ(国民の信頼回復に向けて)」に挙げられた、<政治資金の透明性の徹底><「派閥」の解消と党のガバナンス強化><不断の改革努力の継続>は、これまでに繰り返された「提言」と何ら変わりない。これでは「試行錯誤」とはいえない。岸田氏は、今後も政治刷新本部で議論を進め改革努力継続するというのであれば、残されたトライのチャンスはある。2024年度予算成立後の4月10日の国賓訪米前に、パープレーと認められる政治改革案を錦の御旗にして衆議院解散・総選挙に踏み切ることだ。リスクは覚悟のうえである。でないと「自民党ゴルフ倶楽部」は倒産の憂き目に遭うはずだ。