自民党安倍派(清和会)の衆参院議員3人を始め、二階派(志帥会)、岸田派(宏池会)の秘書や現・元会計責任者らが政治資金規正法違反容疑(不記載・虚偽記載)で立件された派閥の政治資金パーティー事件によって永田町の風景は一変した。一例を挙げる。自民党政務調査会の財政健全化推進本部が1月31日、新体制で始動したことである。これまで同本部長だった額賀福志郎元財務相が昨年10月に衆院議長に就いたことから後任に古川禎久元法相を選出していた。新体制は古川本部長以下、最高顧問に元財務相の麻生太郎副総裁、本部長代行が小渕優子選対委員長、幹事長は青木一彦参院副幹事長である。古川氏(衆院当選7回)、小渕氏(同8回)、青木氏(参院3回)の3人は先に茂木派(平成研)を退会した面々である。新体制下初会合のひな壇正面に向かって左から青木、古川、小渕各氏が並んだ。この財政健全化推進本部は、2021年10月の総理総裁就任2カ月後に岸田文雄首相が立ち上げた。そして「財政再建」という宏池会のDNA(政治的遺伝子)を持つ岸田氏は同本部発足時に「財政は国の信頼の礎」を謳った。古川氏は新体制下のテーマとして改めて国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化させる目標堅持を挙げたが、その達成に悲観的な見方が少なくない。
一方、同じ21年12月に自民党政務調査会に当時の高市早苗政調会長(現経済安全保障相・衆院当選9回=無派閥)主導で政調会長代理の西田昌司参院議員(当選3回)を本部長に迎え財政政策検討本部が発足した。西田氏はMMT理論(自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはないという現代貨幣理論)の信奉者。安倍晋三元首相が最高顧問だった。こちらはアベノミクスを支援する積極財政派の橋頭堡として位置付けられた。財政出動を声高に求める高市氏とそれを支える安倍氏vs財政規律を重視する岸田、麻生氏に茂木敏充幹事長を加えた対立構図だった。「健全化本部」と「検討本部」の発足時点から政局要因の路線対立があったのだ。▶︎
▶︎では、今日の永田町の風景は、何がどう変わったのか。財政積極派集団を支援してきたのは、最大派閥の安倍派をコアとする中堅・若手グループだった。同派を中心に衆院4回生、参院2回生以下の衆参院議員が程なくして「責任ある積極財政を推進する議員連盟」、即ち「安倍応援団」を発足させたほどだ。しかし今や、安倍派分裂必至で「歌を忘れたカナリア」化してしまった。他方、「健全化本部」サイドは意気軒昂である。「派閥解消」が党内のトレンドになり、領袖である茂木氏の頸木から逃れた、とりわけ古川、青木両氏は冒頭の新体制下の「健全化本部」会合で議論を終始リードしたのだ。
それはまるで「茂木派脱会」勢力のお披露目の様相を帯びていた。結果的に岸田氏にフォローの風となった。市場関係者の関心が集まる日本銀行(植田和男総裁)のマイナス金利の解除を含めた金融政策の正常化判断は、4月25~26日の政策決定会合で日の目をみる可能性が高い。加えて、先のPBと物価高での財政再建は6月に予定される「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」に盛り込まれるが、岸田官邸イニシアティブによる策定がスムーズに行われることになる。岸田氏は政権の座に就いた直後からよく「ツキに恵まれている」と言われてきた。
だが永田町には「ツキも実力のうち」という言葉があるように、今回の乾坤一擲の「岸田派解散」表明が永田町の風景を一変させるトリガー(引き金)となったのは間違いない。岸田氏には珍しい一世一代の「決めポーズ」を見せたのだ。歌舞伎でいうところの「見得」を切ったのだ。「政治とカネ」問題の処理は率先垂範、フライング気味で飛び出した方が勝ち、の読みがあったのではないか。東京地検特捜部の捜査の標的になっていた安倍派、二階派を巻き込み、更には党全体まで「拡散」出来れば願ったり叶ったり、ということが本音だったに違いない。まさに乾坤一擲だった。岸田歌舞伎見せ場の「大見得」は大向こうから「岸田屋!」の掛け声がかからなかったにしても、それなりに客席を沸かせたのは事実である。