岸田文雄首相は2月5日夕、イタリアのジョルジャ・メローニ首相と首相官邸で会談、その後、公邸に移り夕食を共にした。昨年1月9~15日の欧州・北米歴訪中の10日にローマを訪れた岸田氏はメローニ氏と日伊首脳会談及びワーキングランチを行ったが、予定時間を遥かに超えた意気投合ぶりは後に両国外交当局の語り草となった。昨年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)議長の岸田氏と今年の議長であるメローニ氏のトップ会談におけるメインテーマは両国の安全保障協力の強化である。とりわけ、日英伊3カ国で共同開発する次期戦闘機を巡る防衛装備品に関し、日本の第三国への輸出問題が隠れたイシューだった。すなわち、現行の「防衛装備移転三原則」運用指針からすると、日本はこの共同開発次期戦闘機を第三国へ輸出することが出来ない。この指針を遵守すれば、共同開発の完成品はもとより部品単体、製造・補修技術の他国への提供も「装備移転」となる。この間、自民党内から連立政権のパートナーである公明党が移転三原則(輸出規制)緩和に慎重であることに批判が上がっていた。事実、1月31日に開かれた自民党の国防部会(黄川田仁志会長)と安全保障調査会(小野寺五典会長・元防衛相)の合同会議で公明党が輸出規制緩和を認めなければ連立解消も考えるべきとの強硬意見が出たほどだった。
こうした経緯もあり岸田氏は5日の衆院予算員会で自民党の長島昭久衆院議員(元防衛副大臣)の質問に「与党間の結論を得る時期として2月末を想定している」と答弁、退路を断った。では、なぜ公明党は「国民の理解が不十分だ」と慎重姿勢を崩さないのか。山口那津男代表は「十分に議論は尽くされていない」(6日の記者会見)とするが、それでも現下の日本を取り巻く安全保障環境から規制緩和に理解を示しているとされる。そしてこれまで規制緩和に消極的と伝えられていた北側一雄副代表も態度を軟化させている。ところがネックとなっているのが、ガチガチに堅い石井啓一幹事長だというのである。同党情報筋によれば、「ポスト山口」の最有力候補である石井氏が「反戦・平和」志向が強い支持母体・創価学会女性部、青年部からの“反発”を危惧しているのではないかというのだ。▶︎
▶︎こうした公明党の“お家の事情”があるとしても、首相答弁でデッドラインは2月末と言明している。戦況の長期化が不可避のウクライナ戦争、先行きが見えないイスラエルとパレスチナの紛争、緊張が続く台湾海峡情勢など、不安定な国際安全保障環境は決して日本と無縁ではない。奇しくも5日の読売新聞(朝刊)が1面トップで報じた「外務省公電漏えい米警告―日本に対策要求、中国がサイバー攻撃」は、改めて日本の「備え」の弱点を指摘したのである。同紙記事はリード<外交上の機密情報を含む公電をやりとりする外務省のシステムが中国のサイバー攻撃を受け、大規模な情報漏えいが起きていたことがわかった>で始まり、本記が<特に秘匿が求められる公電のシステムが破られるのは極めて異例だ。日本のサイバー防衛の安全性に、米国が強い懸念を持っていることが浮き彫りになった。…>と続く。
同記事にあるように2020年8月に来日した米国防総省傘下の国家安全保障局(NSA)のポール・ナカソネ長官(陸軍大将当時・現長官はティモシー・ホー空軍大将)が「日本の在外公館のネットワークが中国に見られている」と警告していたのだ。今や「見られている」から「盗まれている」に被害はエスカレートしている。米国が抱く日本との情報共有への不安払拭には「能動的サイバー防御」導入が急務だとする「読売」記事の指摘は正しい。同紙による“ショック療法”ではないか。では、「能動的サイバー防御」とは何か。内閣官房国家安全保障局(NSS。秋葉剛男局長)作成資料「サイバー安全保障の強化に向けて」にある英語表記は「Active Cyber Defense(ACD)」であり、<脅威情報の活用により攻撃被害が出る前にリアルタイムな検知と阻止を目指すアプローチ>と記述されている。それは法整備を指す。
ここでまた立ちはだかるのが、その体制作りと同時に現行法改正が喫緊の課題となることだ。22年12月の安全保障関連3文書改定は秋葉NSS局長を中心に実現したが、当時すでにNSSと関係省庁は24年通常国会に関連法改正案提出・成立を目指すことで基本合意をみていた。だが、またもや秋の臨時国会へ先送りとなった。岸田政権に諸般の事情があるは承知している。結局、我が国は「too little, too late(小さすぎ、遅すぎ)」と言われ続けるのだ。