ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月8日、軍制服組トップのワレリー・ザルジニー総司令官を解任し、後任にオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を起用すると発表した。昨年6月に始まったウクライナ軍による対ロシア反転攻勢が期待された成果を上げられずウクライナ戦争の先行きの長期化必至の現状に不満を抱くゼレンスキー氏が、戦況の認識や兵士の動員方針、対露軍事作戦の優先順位などを巡るザルジニー氏との意見対立が表面化し、終に解任に踏み切ったのである。ゼレンスキー氏にとって、戦う兵士の信頼が厚く、国民からの人気も高いザルジニー氏更迭は大きな「賭け」と言っていい。ザルジニー氏の現状認識「戦況は膠着状態にある」(昨年11月に英誌「エコノミスト」寄稿文中の指摘)なかで、年初からウクライナ軍の兵士・弾薬・砲弾・兵器不足はさらに深刻化している。
こうした厳しいウクライナ情勢下の2月19日、東京・大手町の経団連会館で日本ウクライナ経済復興推進会議が開かれる。岸田文雄首相、十倉雅和経団連会長、石黒憲彦日本貿易振興機構(JETRO)理事長、そしてデニス・シュミハリ首相やユリヤ・スヴィリデンコ第1副首相兼経済相など両国政府、企業関係者らが出席する。ウクライナの企業・研究機関など約50の組織からの100人規模に日本側出席者を加えた総勢約300人になる。同復興会議では、日・ウクライナ共同コミュニケ発表以外に両国租税条約の改正、さらに「インフラ復旧・復興に関する協力覚書」(国交省=インフラ省)、「無償資金協力にかかる交換公文」(外務省=インフラ省)、「二国間クレジット制度(JCM)構築に関する協力覚書」(環境省=環境保護・天然資源省)などの包括的協力覚書(MOC)交換式も実施される。こうした両国官民合同会議に国内外から熱い視線が向けられるのには理由がある。
改めて言うまでもなく、11月5日に行われる米大統領選でドナルド・トランプ前大統領がジョー・バイデン現大統領を破り、来年1月にホワイトハウスの主として返り咲くとなると、ウクライナ戦争の行方が全く不透明になるからだ。一方で、トランプ氏がウラジーミル・プーチン露大統領とのディールで「停戦・休戦」が実現するかもしれない。▶︎
▶︎だが、それはロシアの軍事侵攻によって占領されたウクライナ東部・南部4州の事実上の現状維持を認めることになる。平たく言えば、ロシアのウクライナ侵略を容認すること、すなわち“遣り得”である。それゆえに諸外国は現行の「防衛装備移転三原則」の制約を受ける日本がウクライナ復旧・復興支援にどのような具体策を準備しているのかに強い関心を抱くのだ。15日(米東部標準時)に世界銀行が発表した試算によると、ウクライナ復興費用は10年間で4860億㌦(約72兆円)に達するという。この巨額な復興ビジネスに多大な関心を持つだけでなく、日本に先行して現地アプローチを進めているのは、昨年7月に尹錫悦大統領が同国を訪れた韓国だ。それだけに韓国はその「目安」となる共同コミュニケに多大な関心を持っている。
現時点で筆者が承知している限り、同コミュニケには「日本側は、ウクライナ及びその人々が自由及び独立を守り、領土一体性を回復することを支援し、また、第一次産業から第三次産業までの経済発展及びウクライナ経済の安定のため、長期的に支援することにコミットする。そして初期の緊急復旧支援フェーズから、経済復興・産業強化まで、あらゆるフェーズでの継続的な支援を表明し、インフラ整備支援、汚職対策及びガバナンス強化のための基盤構築の重要性をウクライナ側に提起する」といった文言が盛り込まれるはずだ。 要は、非軍事部門での全面的なウクライナ支援を10年タームで約束するというものである。たとえ「トランプ大統領」が誕生したとしても、このコミットは不変であると国内外にアピールすることになる。次回復興会議は6月にドイツで開催されるが、その頃までには米大統領選の行方が見えて来るのではないか。