2月15日付の新聞各紙(朝刊)は、岸田文雄首相が「来月20日の訪韓を調整」と報じた。同報道が関心を集めた理由は、20日夜にソウルの高尺スカイドームで米大リーグの大谷翔平選手、山本由伸投手が所属するドジャースの開幕戦が行われるからだ。兆候はあった。日本経済新聞会員限定記事「韓国Watch」(1月30日付)に峯岸博編集委員が次のように書いていた。<韓国で1つのサプライズ案が浮上しています。岸田首相が3月に電撃訪韓し、尹錫悦大統領と会談するというものです。米大リーグのロサンゼルス・ドジャースとサンディエゴ・パドレスが3月20、21日にソウルで戦う開幕シリーズに合わせた構想で、岸田首相が開幕戦で始球式を務め、尹大統領と一緒に試合を観戦するアイデアも一部でひそかに練られています>。「岸田首相訪韓・両首脳野球観戦」案を両国政府が検討と報じたのだ。
筆者は同報道後、日を置かずして首相官邸幹部と会い、この「首相3月訪韓」説を質している。そもそも同時期の韓国政府主催のオンライン形式による「民主主義サミット」に合わせた日韓首脳野球観戦案は韓国大統領府が作成し、日本側に非公式打診があったのは昨年後半だったという。▶︎
▶︎ところが4月10日に総選挙が控える韓国で、尹大統領夫人の高級バッグ賄賂疑惑が取り沙汰されるなか野党から日本との関係改善を進める尹政権に批判的な意見が噴出している。他方、岸田政権は2024年度予算案の国会審議が大詰めを迎えるなか自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件について野党の厳しい追及に晒されている。このような政治状況の最中に日韓両首脳の「シャトル外交」と称して野球観戦などあるまじき事と批判されるので難しいのではないかと、先の官邸幹部は筆者に答えた。熱烈な野球ファンで知られる尹大統領はソウル大学の法学部野球部に所属した。
一方の岸田首相は私立名門の開成高校2年生から硬式野球部レギュラーであり、打順2番・守備セカンド出身である。 ドジャースと対戦するパドレスには、昨年のナ・リーグのゴールドグラブ賞受賞者で韓国人の金河成・内野手、ダルビッシュ有・投手がいる。この米大リーグ開幕戦が話題となるのは間違いない。 筆者はダメ押しで外務省幹部に確認を求めた。曰く、日韓メディアは昨年3月に「侍ジャパン」で盛り上がったワールドベースボールクラシック(WBC)に尹大統領来日と騒ぎましたが、結局ガセでした――。「話題作り」優先外交は、見果てぬ夢で終わるのだろうか。