防衛省(増田和夫事務次官)は2月19日午前、東京・市ヶ谷の防衛省内第1省議室で防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の第1回総会を開催した。初会合の3日前に設置された同会議は、座長:榊原定征経団連名誉会長(東レ元会長)、座長代理:北岡伸一東京大学名誉教授の他、総会メンバー:遠藤典子慶應義塾大学特任教授、島田和久元防衛事務次官(内閣官房参与)、森本敏元防衛相(拓殖大学特任教授)、柳川範之東京大学大学院経済学研究科教授、山崎幸二前統合幕僚長(防衛省顧問)、澤田純日本電信電話(NTT)会長、杉山晋輔元駐米大使、橋本和仁内閣官房科学技術顧問(東京大学大学院工学系研究科教授)、山口寿一読売新聞グループ本社社長、若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授(前日銀副総裁)の計12人。防衛政策個々の施策に関わる重要事項を討議する同会議部会専任メンバーに、新進気鋭の落合陽一筑波大学准教授(東大大学院学際情報学府で博士号取得。ピクシーダストテクノロジーズCEO)、栗崎周平早稲田大学政治経済学術院准教授(外交・安保、紛争解決、核戦略などの専門家)、小西美穂関西学院大学総合政策学部特別客員教授(元日本テレビ報道キャスターでジェンダー問題・放送メディア論の専門家)、そして上山隆大総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)議員(科学技術政策・公共政策が専門)と宮永俊一三菱重工会長が名を連ねる(尚、上述の北岡氏から山崎氏までは部会メンバーも兼務)。
長々と有識者会議メンバーの略歴を紹介したのには、もちろん理由がある。この種の政府所管の「有識者会議」メンバーは、学界からその政策全般に通暁する学者、経済界からその政策課題と直接的利害を持つ企業経営者(業界の専門家)、大手メディアからその「右代表」と「秀逸なジャーナリスト」、そしてその政策を担う当該省庁の有力官僚OBか大臣経験者が選ばれるのが通常である。ところが今般の防衛省が所管する有識者会議の部会メンバー人選には、正直いって、大変驚いた。とりわけ、<2022年12月に決定した国家安全保障戦略など3文書に基づく防衛力強化の進展状況について、サイバーや防衛装備品輸出、財源確保などの課題を点検・整理し、各界各層の幅広い意見を政策に反映させる狙いがある>(読売新聞2月19日付夕刊)有識者会議のメンバーに、落合陽一氏の名前が記述されていたことである。▶︎
▶︎同氏があの落合信彦氏の息子であることは承知していた。幅広いジャンルで活躍、多くの著作を出版して若者からそのライフスタイルを含め広範な支持を得ているだけでなく、筆者が敬して止まない先達の田原総一朗氏が高く評価していることも知っている。 検索すると直ぐに分かるが、確かに落合氏は経済産業省の産業構造審議会経済産業政策新機軸部会委員、文部科学省の文化審議会文化政策部会委員、内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員などを務めている。それにしても、なぜ「防衛力の抜本的強化」なのかという印象を抱くが、この人選をよくよく吟味すると得心する。現防衛事務次官の増田氏は歴代次官とは少々異なるタイプと言っていい。永田町が自民党派閥の裏金事件でその風景が一変したように、霞が関も変革の真っ只中にあるのだろう。これまでの、いわゆる有能な官僚ではとても考えつかない発想を以て人選したに違いない。件の有識者会議翌日の新聞報道(20日付朝刊)は、見事に各紙横並びであった。見出しは以下の通り。「防衛強化 進展検証へ―有識者会議、円安予算も議論」(読売)、「防衛強化へ『43兆円点検を』―有識者会議、物価上昇や円安踏まえ」(日経)、「防衛費43兆円増額求める声―有識者会議、円安・物価高踏まえ」(産経)――。
一昨年12月に岸田文雄政権はわが国の防衛政策の根幹に関わる安全保障関連3文書改定という大事業を成した。と同時に、27年度までの5年間で防衛費総額を約43兆円に定めた。しかし、初会合で現在の円安や物価高などを踏まえ増額を視野に入れるべきとの声が上がったのは事実である。だがどこか1紙でよかったが、今有識者会議にはかくもユニークなメンバーが含まれているとの紹介コラムを掲載すべきであったのではないか。国民にとって「防衛」がもっと身近になるチャンスであるからだ。