先週の某夜、40年来の知己で米スタンフォード大学元教授のダン・スナイダー氏、同夫人のエリザベスさんと会食した。田原総一朗氏の「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」(『中央公論』76年7月号)に触発されて来日したスナイダー氏と会ったのが最初だ。今でこそお笑い種だが、若かりし頃の同氏とその仲間は「陰謀史観」グループの一員で、かく言う筆者も似た者同士だった。それから約10年後に再会した。同氏は米紙クリスチャン・サイエンス・モニター東京支局長、エリザベスさんが米紙ウォール・ストリート・ジャーナル東京特派員であった。その後、スナイダー氏は同紙モスクワ支局長を経て、スタンフォード大学アジア太平洋研究センター共同副所長・教授に就任した。アカデミズムへの転身である。2006年10月、筆者は同センターに招かれて、その直前に発足した第1次安倍晋三政権について講演した。岸信介→安倍晋太郎の系譜を継承する安倍氏の政治的背景を述べたのだ。事前に英訳草稿を準備、サンフランシスコに向かう機内で丸暗記して臨んだスピーチだが、その後の質疑応答を含め空回りしたのは言うまでもない。会場最前列にマイケル・アマコスト元駐日大使を認めて、瞬時すべてを忘れてしまったのだ。今やほろ苦い思い出である。
本題に戻る。外交・安全保障政策の専門家として名を馳せたスナイダー氏の活躍ぶりは、定年となった現在も同大で講師を務める傍ら、東洋経済オンラインに定期寄稿しているので周知の通りだ。▶︎
▶︎さて、そのスナイダー夫妻との夕食を交えた話題の殆どが「トランプ」であったのは必然である。お二人はバラク・オバマ大統領誕生からその後暫くの間は熱心な民主党支持者だった。だが、11月5日の米大統領選を控えた現状をどう見ているのか。スナイダー氏はこう言った。ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の一騎打ちを「老人(オールド)と狂人(クレイジー)の闘い」。同氏の現状分析は興味深い。日本では「もしトラ」から「ほぼトラ」に移行しつつあるが、それは早計だと断じる。現在は45%対45%の接戦で残る10%が勝敗の鍵を握るという。
とりわけ、共和党支持層の白人・高学歴の独身女性(シングルマザーを含む)の動向に注目する。トランプ氏が中絶容認や遵法問題などでさらなる「クレイジーぶり」を発揮すればバイデン氏に傾斜すると見ているのだ。同氏を怒らせればよりクレイジーになるので米メディアを扇動するのも一計かと盛り上がり、会食はお開きとなった。