読売新聞(3月25日付朝刊)は一面左肩に「在日米軍の司令機能強化―日米指揮統制見直し、首脳会談合意へ」の見出しを掲げて、同記事の冒頭で次のように報じた。
<米政府は、米軍と自衛隊との連携促進のため在日米軍の司令部機能を強化する調整に入った。複数の日米両政府関係者が明らかにした。陸海空自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」が2024年度末に創設されるのに合わせ、日米の相互運用性を向上させる狙いがある。日米両政府は、4月10日の首脳会談後に発表する共同文書で、日米の指揮統制枠組みの見直しを明記する意向だ>。 事実である。翌26日に日本経済新聞(朝刊)がフォローしているので「読売」のスクープだ。しかし、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が24日付電子版で「US and Japan plan biggest upgrade to security pact in over 60 years」と題した詳細な記事を伝えていた。
それはさて措き少々、説明を捕捉したい。先ずは東京都下の横田米空軍基地に司令部を置く在日米軍司令部(リッキー・ラップ司令官=空軍中将)。米軍は世界に6つの地域別統合軍を展開するが、その中でも最大規模を誇るのが米インド太平洋軍(USINDOPACOM。ジョン・アキーノ司令官=海軍大将)であり、ハワイ州オアフ島の米海兵隊キャンプ・H・M・スミス内に司令部がある。陸海空軍及び海兵隊約38万人の兵士を擁する。司令官は5月にアキーノ提督からサミュエル・パパロ現太平洋艦隊司令官(海軍大将)に交代する。在日米軍司令部は、この米インド太平洋軍司令部の傘下にある。
そして在日米軍司令部には以下の各部隊が配置されている。米第5空軍司令部(東京都福生市の米横田空軍基地。ラップ中将が司令官を兼務)、在日米陸軍司令部(神奈川県座間市の米陸軍キャンプ座間。デイブ・ウォーマック司令官=陸軍少将)、米第7艦隊司令部(神奈川県横須賀市の米横須賀海軍基地。フレッド・ケイチャー司令官=海軍中将)、在日米海兵隊司令部(沖縄県うるま市の米海兵隊キャンプ・コートニー。ロジャー・ターナー司令官=第3海兵遠征軍司令官・中将)などだ。付言すべきは、米海軍最大の艦隊としてインド太平洋地域を管轄する米第7艦隊司令部の存在である。横須賀を拠点とする同艦隊は原子力空母「ロナルド・レーガン」など70隻以上の艦船、200~300機の航空機、そして4万人以上の海軍兵士、海兵隊員が展開する。司令部は旗艦ブルーリッジ艦上に置く。▶︎
▶︎次は自衛隊統合作戦司令部。今年の2月9日、政府は同統合作戦司令部の設置を盛り込んだ防衛省設置法等改正法案を国会に提出した。具体的には、同設置法第21条第一項に「陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊の共同の部隊として統合作戦司令部を置く」の文言を加えたものだ。4月4~5日には衆院本会議で同改正法案の趣旨説明及び質疑が行われる。
尚、同統合作戦司令部は東京・市ヶ谷の防衛省内に設置される。 防衛省統合幕僚監部(統合幕僚長・吉田圭秀陸将)の運用部を切り離して実働部隊を一元的に指揮できるよう、既存の陸海空に加えて宇宙・サイバー・電磁波の領域横断作戦を実施する統合運用態勢の確立のためだ。主目的はもちろん、米インド太平洋軍との調整機能を保有・活用することである。
「在日米軍の司令機能強化」(読売の見出し)は、在日米軍司令部の権限を強化して新設される自衛隊統合作戦司令部との連携強化を意味する。それは、FT報道「Tokyo has been pushing for a US four-star commander in Japan 」にあるように、現行の在日米軍司令官(空軍中将)を、例えばパパロ提督の後任太平洋艦隊司令官(海軍大将)クラスの4つ星(大将)に格上げするということである。そして権限が強化された在日米軍司令部と統合作戦司令部が共同作戦を通じて「台湾有事」や「朝鮮半島有事」の事態に対処するというものだ。念頭に置くのは米韓連合軍司令部(CFC。ポール・ラカメラ司令官=陸軍大将・在韓米軍司令官兼務)である。岸田文雄首相が描く近い将来の絵図は、米韓並みの自衛隊と米軍の指揮統制の見直しとその一体化ではないか。まさに岸田進軍ラッパ、鳴り響くだ。果たしてそこまでやる必要があるのか、というのが筆者の率直な気持ちである。