岸田文雄首相は4月11日午前11時10分(米東部時間・日本時間12日0時10分),米連邦議会上下両院合同会議で演説する。戦後,米議会での首相演説は岸田が5人目である。1951年9月8日のサンフランシスコ平和条約に署名した吉田茂がワシントン滞在中の54年11月12日に上院で演説(実態は挨拶)したのが最初で,57年6月20日に上院で岸信介,61年6月22日に下院で池田勇人,そして54年ぶりの2015年4月29日に上下両院合同会議で安倍晋三が演説を行っている。安倍演説が過去の総括に主眼があったのに対し岸田演説は安倍の残した基盤の上に,日米同盟の未来に向けたメッセージに重点を置いたものだ。
具体的には①次世代に日米両国がどんな未来を残したいのか,そのためのグローバルパートナー②日本が安保,経済面でどのように変わりつつあるかを首脳間だけでなく,広く米民主,共和両党,そして米国民に問いかける――が肝である。これらを全て含む鍵となるメッセージは以下の通り。
本誌が入手した英文の演説草稿の記述だ。「『自由と民主主義』という名の宇宙船で日本はあなた方の同船者であることを誇りに思う(On the spaceship called “Freedom and Democracy”, Japan is proud to be your shipmate)。私たちは甲板に立ち,任務を遂行する。そして,必要なことを行う準備ができている。世界の民主主義諸国は,総力を挙げて取り組まなければならない。私はここで,日本はすでに米国と甲板上にあり,協力する態勢にあると申し上げたい。あなた方はひとりではありません(You are not alone)。私たちはあなた方とともにいます(We are with you)。日本は長い年月をかけて変わりました。▶︎
▶︎……私自身,二国間同盟をより強固なものにするために先頭に立ってきました(I myself have stood at the forefront in making our bilateral alliance even stronger)。」岸田が安倍を強く意識していることは周知の通りだ。安倍が米議会演説に招待したのは1945年2月の硫黄島を巡る熾烈な戦いで旧日本軍守備司令官だった栗林忠道陸軍大将の孫,新藤義孝衆院議員(現経済再生相)と,攻略を担った米海兵隊中隊長(大尉)のローレンス・スノーデン元中将(当時94歳)。一方,岸田が傍聴席に招いたのは日米2人の宇宙飛行士である。一人は2021年に国際宇宙ステーション(ISS)船長を5カ月務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)所属の星出彰彦。もう一人が元米NASA(航空宇宙局)宇宙飛行士の日系3世ダニエル・M・タニである。タニは01年と07年の2回のミッションで延べ132日間に及ぶ長期滞在で6度の宇宙遊泳を経験した。岸田は傍聴席の星出とタニに声をかけて聴衆に紹介するとスタンディングオベーション必至という演出を用意している。安倍の「過去」に対し,自分は「未来」とアピールしたいのだろう。
それはともかく,10日の日米首脳会談の主要テーマの一つが「宇宙」であることは間違いない。ジョー・バイデン大統領との会談後の共同声明に,日本人が米国人を除く宇宙飛行士として初めて月面着陸を実現するとの文言が盛り込まれる。日本は米NASAが主導する有人月面探査「アルテミス計画」に全面協力する…(以下は本誌掲載)申込はこちら