前々回、前回に続き4月10日午前(米東部時間)にホワイトハウスで行われた日米首脳会談について言及する。「またかよ」と言わずに、是非とも読み続けていただきたい。取り上げるに値する今回の岸田文雄首相とジョー・バイデン大統領のトップ会談は、我が国の外交・安全保障政策にとって大きなエポックメーキングとなるものだった。「ワシントンは岸田総理を単なる『安倍ブランド』の後釜ではなく、日本の地政学政策を質的に変化させ、日米同盟の真の軍事同盟に転化させるビジョンを持った独自の指導者として認識している。それが日本で伝わっていないのはメディアの怠慢だが、ワシントンでは『岸田ブランド』は確立している」。米会員制ニュースレター「OBSERVATORY VIEW」(4月13日付)はそう指摘した。
同紙冒頭には次のように記述されている。「……今回の岸田訪米は日米同盟が質的に飛躍した瞬間として認識されるだろう。米軍にとって、これまで日本の最大の重要性は、地域における米軍の展開拠点という点であったが、今回の首脳会談後、自衛隊は必要があれば米軍と肩を並べて戦争をする真の軍事パートナーになる」。平たく言えば、今や「日米軍事同盟」になったと、ワシントンの外交・安全保障政策のプロは指摘しているのだ。本稿では外交・安保とはやや異なった視点から日米同盟の内実に触れてみたい。それは岸田氏に同行した齋藤健経済産業相が、首脳会談と同じ10日にジョン・ポデスタ大統領上級補佐官と行った閣僚級政策対話に関するものだ。筆者は前々回にその重要性を指摘した。この日米政策対話の出席者は以下の通り。
米側:①ポデスタ大統領上級補佐官(国際気候政策担当)、②クリスティーナ・コスタ大統領副補佐官(クリーンエネルギー・イノベーション担当)、③サラ・レディスロー米国家安全保障会議(NSC)環境・エネルギー担当上級部長、④リック・デユーク国務省気候問題次席特使、⑤アンドリュー・ライト・エネルギー省次官補(国際担当)、⑥ジェニファー・シェーグレン同クリーンエネルギー・イノベーション実装室長、⑦イーサン・ジンドラー財務省参事官(気候変動担当)、⑧ヘザー・エバンス商務省次官補代理(産業担当)の8人。日本側:①齋藤経産相、②畠山陽二郎経産省産業技術環境局長、③荒井勝喜通商政策局審議官(通商政策局担当)、④木原晋一官房国際カーボンニュートラル政策室長の4人。米側出席者は日本の倍である。▶︎
▶︎先ず、米側のラインナップである。特筆すべきは、エネルギー省はもとより、前々回に書いたように日本のGX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略と米国のIRA(インフレ削減法)のシナジーについて、税額控除を中心施策とするIRAの施行官庁・財務省の実務責任者、国務省の環境問題特使室ナンバー2など広く同席させたことだ。このようにバイデン政権は、(1)GX・IRA連携に本気であることが出席者から窺える。新たな技術やプロジェクトの展開が遅延しないよう、日本企業が米国へグリーン投資を行う場合の規制や支援措置に関する一括窓口設置の意向をポデスタ氏が示した。(2)水素、浮体式洋上風力などクリ-ンエネルギーの日米サプライチェーン(供給網)構築のために注力する。(3)民生用原子力分野における日米協力についても強く期待する――。
まさに“オールUSA”で臨むというのだ。この齋藤・ポデスタ会談は日米経済協力・経済安全保障の強化という岸田・バイデン会談最大の目的を捕完するものである。ポデスタ氏が、日米首脳会談に先立つ3月中旬に来日し、上川陽子外相と齋藤経産相と会談していたことは既報している。同氏は、実は首相官邸幹部とも協議していたのだ。その席でGXとIRAの連携がエネルギーと産業立地・構造の一体化によって脱炭素日米協力に貢献すると語ったという。岸田政権が注力するGX戦略遂行の中核として新設される「GX推進機構」(理事長・筒井義信日本生命保険会長=経団連副会長)は7月に業務を開始する。同機構の最高執行責任者(COO)として実務を担うのはボストンコンサルティンググループの重竹尚基シニアパートナーだ。10年間で150兆円の官民投資を期待する政府はすでにその財源として約20兆円規模の「GX経済移行債」発行を決定、財務省は2月に同10年債と5年債の合計1.6兆円を金融市場で売却した。GX戦略はフェーズⅡに突入したのである。