永田町ウォッチャーの間で、岸田文雄首相の最側近である木原誠二自民党幹事長代理の公然、非公然の言動が密かな話題となっている。少々前の事だが、4月26日の朝日新聞(朝刊)は「政権交代起こってもおかしくない。首相最側近・木原氏が発言、広がる臆測」の見出しを掲げて、次のように報じた。<財務官僚出身の木原氏は、日本の政府は官僚機構が中核を握り、政権交代でも政策は変わらないとの認識を述べたかったようだが、首相側近の発言だけに注目を集めている>。「仮にそういうこと(政権交代)があっても日本の政治は、霞が関がしっかりしている」の引用が木原氏自身の言葉であったとしても、それは何ら不思議なことではない。それよりも何よりも、どのような脈絡から「政権交代起こってもおかしくない」という表現となったのかの検証である。それを以て木原氏の発言意図が見えて来るからだ。そもそもの経緯から説明したい。同25日午前、東京・平河町のルポール麹町で自民党の猪口邦子参院議員(麻生派)の朝食勉強会が開かれた。そのゲストスピーカーが木原氏である。猪口事務所スタッフから新聞記者が聴衆に紛れ込んでいると聞かされたこともあり、猪口氏が木原氏に質問する形式で進行された。その中で大統領選を控えた米国の分断について尋ねられた木原氏が、派閥の政治資金規正法違反事件を念頭に「今、自民党は非常に厳しい状況にあり、政権交代が起こってもおかしくないが‥‥…」と続けたのである。言葉遣いとしての「政権交代」は確信犯である。
その意味では「読売」の見出しにある「『政権交代も』木原氏が危機感」は正しい。すなわち、自民党が直面する現状への危機感を促すための発言となる。同氏と話す機会が少なくない筆者が斜に構えて推測すれば、やや異なる見方が生じる。それは岸田首相の国賓待遇による訪米(4月8~14日)の1、2週間前頃から、岸田氏と木原氏の間に隙間風が吹き始めたという話が耳に入るようになったことと無関係ではない。今国会会期内の衆院解散を巡り、前のめりになる岸田氏に対しブレーキをかける木原氏という対立構図がそれだ。改めて指摘するまでもなく9月の自民党総裁選で再選を目指す岸田氏は、それまでに衆院解散・総選挙を断行して自公過半数を維持できればそれが叶うとの見通しに立つ。
しかし、多くの選挙予測のプロは自民党が現有の257議席の200割れは必至であるだけでなく、自民、公明両党合わせても過半数233議席に届かないと断じる。これが永田町で支配的な見方である。因って早期解散反対論の麻生太郎自民党副総裁は岸田首相(総裁)支援を大義にして傍らで暴走阻止のため目を光らせているのだ。たとえ同床異夢であれ麻生、木原両氏は“同志”と言っていい。▶︎
▶︎最近の木原氏は、BSフジの報道番組「プライムニュース」生出演やテレビ・ラジオ局(放送人)政治記者OBの勉強会ゲスト、大型連休前の(4月25~30日)にオーストラリア政府招聘による豪州訪問に自民党旧二階派の小倉将信、旧安倍派の松川るい両副幹事長を同行するなど精力的だ。 筆者は当コラムの3月2日付で「令和臨調」(共同代表・茂木友三郎日本生産性本部会長)の肝いりで1月下旬に発足した「日本社会と民主主義の持続可能性を考える超党派会議」(自民、公明、立民、維新の会、国民の各党衆参院議員85人)について言及した。
いま想い起こしてみれば、これが兆しだったのかもしれない。自民党代表世話人・各党筆頭代表世話人の小渕優子選対委員長(衆院当選8回・無派閥)を除くと、テーマ別4部会の主要メンバーは木原氏(5回・旧岸田派)の人選と言える。齋藤健経済産業相(同・無派閥)、鈴木馨祐政調会副会長(同・麻生派)、小林鷹之前経済安保相(4回・旧二階派)、大野敬太郎総務会副会長(同・無派閥)、塩崎彰久厚労相政務官(1回・旧安倍派)など。面子からも分かるように、いずれもが同党の政策エリートである。そして上述メンバーから自民党政治刷新本部の「政治資金に関する法整備検討ワーキンググループ」座長に鈴木氏、同事務局長に大野氏が選ばれている。要するに“木原イニシアチブ”なのだ。言うまでもないが、5月6日午後、フランス・南米歴訪から帰国した岸田首相が羽田空港から首相公邸に直行し、いの一番に面会したのは鈴木、大野両氏だった。
永田町では8日昼過ぎに7月7日投開票の東京都知事選と衆院選のダブル選挙説が駆け巡った。共同通信は来週18日に選挙班拡大会議を予定していることもあり、霞が関(選挙事務を担う総務省)も巻き込んだ大騒ぎになっている。孤高の岸田氏は政治資金規正法改正実現を錦の御旗にして強行突破の意向のようだ。