5月17日午前、東京・永田町の自民党本部1階の101号室で党経済安全保障推進本部(本部長・甘利明元幹事長)、デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也元デジタル相)、安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)の合同会議が開かれた。議題は「サイバー安全保障分野における各国の制度と対応力の向上に向けた政府の検討状況について」であった。甘利氏は同会議冒頭に重大なサイバー攻撃による被害を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(Active Cyber Defense:ACD)」の導入に向けて、次のように述べて早期の法整備の必要を強く訴えた。「国際標準を備えるために乗り越えなければならない壁がある。国民を守る態勢をしっかり築く」。2022年2月のロシアによるウクライナ侵略の際に、侵略開始1年以上前からウクライナの政府機関や重要インフラの情報システムやネットワークに侵入、破壊的サイバー攻撃の準備をしていたことは周知の事実である。
一方、中国軍のハッカーも日本を含む西側諸国の重要インフラにマルウェア(悪意のあるプログラム)を仕掛けていることも明らかになっている。我が国にとって深刻な事態が起こっていたことが判明したのは、20年秋に来日した米国防総省(ペンタゴン)の情報機関、国家安全保障局(NSA)のポール・ナカソネ長官(当時)がもたらした衝撃的な情報だった。外交機密を含む公電をやりとりする外務省のシステムが中国のサイバー攻撃を受け、大規模な情報漏洩が起きていると、米軍事情報当局トップから警告されたのだ。我が国のサイバーセキュリティ政策を推進する機関は、15年1月に設置された内閣サイバーセキュリティセンター(NISC。センター長・鈴木敦夫官房副長官補=前防衛事務次官)である。警察庁、デジタル庁、総務省、外務省、経済産業省、防衛省はサイバーセキュリティ施策の実施でNISCに協力する。バイデン米政権下の担当機関の構成は以下の通り。ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)のアン・ニューバーガー大統領副補佐官(サイバー・新興技術担当)とハリー・コーカー国家サイバーセキュリティ局長を頂点に、国防総省国家安全保障局(NSA)、国務省国際開発庁、国家情報長官府サイバー脅威インテリジェンス集約センター(CTIIC)、司法省連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラストラクチャーセキュリティ庁(CISA)、商務省国立標準技術研究所(NIST)が連携する。 ▶︎
▶︎因みにニューバーガー氏は昨年12月に来日し、サイバー攻撃対処のための日米豪印4カ国上級サイバーグループ会合に出席している。日本側は市川恵一国家安全保障局次長兼内閣官房副長官補(前外務省総合外交政策局長)が対応した。内閣官房の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は米国土安全保障省CISAがカウンターパートである。情報収集・対処などを支える制度の“日米格差”は計り知れないほど大きなものがある。予算・人員から法整備・官民協力枠組みについて比較すれば、現実の彼我の差に気付かされて嫌になるほどだ。それ故に政府・自民党が現在、進めているのは《NISCを発展的に改組し、サイバー安全保障分野の一元的に総合調整する新たな組織を設置する。
そして、これらのサイバー安全保障分野における新たな取組の実現のために法制度の整備、運用の強化を図る》(17日の会合で配布された資料の記述)である。それはすでに「サイバー安全保障体制整備準備室」(室長・小柳誠二内閣審議官=前警察庁長官官房審議官)が機能している。事実、当日の会合に同準備室から小柳室長、門松貴次長(元菅義偉首相事務秘書官=経産省)ら総勢9人が出席している。「先ず隗より始めよ」という言葉もある。いきなり米・英・豪並みとはいかないので、読売新聞(5月21日付朝刊)が報じたように、米CISAが設立した官民サイバーセキュリティ協力枠組み(JCDC)を参考にサイバー攻撃防御・対処力強化のため政府の新組織と電力・通信・水道などインフラ事業者との協議体新設が必要である。