霞が関の夏の定期人事異動も終わり、七夕東京都知事選は小池百合子知事が圧勝して3選を果たした。
では、霞が関が永田町最大の関心事である9月20日に予定される自民党総裁選をどう見ているのか―を理解するため2主要省庁の各ツートップと酒食を交えた意見・情報交換の機会を得た。先ず指摘すべきは、霞が関官僚群が岸田文雄首相の総裁選不出馬はあり得ないと判断していることである。逆に新聞・雑誌報道に目を配れば分かるのは、不人気の頂きにいる岸田首相不出馬を前提とする記事が過半を占めることだ。自民党若手・中堅国会議員はどう足掻いても現下の岸田内閣支持率低迷と自民党支持率下落から逃れられないと諦観しているという。平たく言えば、岸田首相を「選挙の顔」として次期衆院選を戦えないというのが、2012年12月総選挙で初当選した衆院4回生以下の140人殆どの率直な気持ちであろう。
繰り返し書いてきたことだが、そうした切実な思いに駆られる中堅・若手の声をいちはやく吸い上げたのが菅義偉前首相である。「キングメーカー」視される菅氏は政治資金規正法改正与党案が衆院を通過した6月6日夜、菅政権の閣僚を務めた萩生田光一元文部科学相、加藤勝信元官房長官、武田良太元総務相、小泉進次郎元環境相を召集し、総裁選に向けた対応策を協議した。世上は「岸田降ろし」の号砲が鳴らされた日と記憶する。菅氏を中心とする「反岸田」グループの総裁選戦略は分かり易い。不人気の岸田氏に代わって人気者とペアを組む総裁候補を擁立する。小泉氏を官房長官候補として加藤、石破両氏のいずれかを総裁(首相)候補に据える。コンビで総裁選に挑むのだ。
もちろん、保守系候補として高市早苗経済安全保障担当相の立候補は確定的だ。野田聖子元総務相も意欲があるとされる。河野太郎デジタル担当相は既に派閥領袖・麻生太郎副総裁に対し仁義を切り、神奈川県連からみで菅氏に近く出馬を相談済みとされる。当選4回生以下が擁立する動きに出ている小林鷹之前経済安保相、党内外からの評価がうなぎ登りの齋藤健経済産業相もいる。そして長時間に及んだ先述の某省トップも認めたが、ここに来て茂木敏充幹事長が条件付きであるが出馬の意向を固めたというのだ。▶︎
▶︎岸田氏不出馬が条件。最近、茂木氏が上機嫌だとの話は筆者の耳にも届いていた。それも11月の米大統領選の行方が「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わった時期とほぼ一致する。数多いる総裁候補の中で首相としてドナルド・トランプ前大統領と伍して対応できるのは自分のみという強い自負がある。確かにトランプ氏が日本の政治家で名前を憶えているのは「シンゾー」(安倍晋三元首相)を除くと、「アッソー」(麻生氏)、「モッテギー」(茂木氏)の2人だけだと伝わる。トランプ政権最大のタフネゴシエイターで知られたロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表を相手に厳しい貿易交渉を行った茂木経済再生相(当時)を覚えているというのだ。ジョー・バイデン大統領と「ジョー」&「フミオ」の良好な関係から岸田氏の名前はトランプ氏の頭の片隅にすら入っていないとの解説付きである。今秋の自民党総裁選劇の舞台は賑やかになりそうだ。自他薦の多くが名乗りを上げる。
しかし、ドラマの演出者は攻める側の菅氏なのか、それとも守る側の岸田氏なのか舞台袖から観ていても分からない。なぜならば、もう一人のキングメーカーである麻生氏の胸の内がよく分からないからだ。「岸田降ろし」を仕掛けてきた菅氏とは絶対に相容れない。では岸田氏再選を支援するのか?岸田氏では衆院選は戦えないので「トランプ大統領」に力負けしない茂木氏を担ぐ?そのためには岸田氏の首に鈴を付ける役回りを引き受けるのか。老・壮・青に通じる菅氏が自民党総裁選に国民の関心を引き寄せる隠し玉を持っているとの情報もある。これから激しい情報戦が繰り広げられるはずだ。その中には情報攪乱のためのディスインフォメーション(偽情報)も含まれるはずで、自戒も込めて言いたい。トランプ氏周辺から出て来るフェイクニュースはともかく、SNS(交流サイト)上には総裁選に関する巧緻なフェイクが散見されるので注意して頂きたい。