米民主党大統領候補のカマラ・ハリス副大統領(59歳)は8月6日夜(米東部時間)、11月5日の米大統領選を共に戦う副大統領候補に中西部ミネソタ州のティム・ワルツ知事(60)を指名した。 米メディアや政治専門家がハリス氏のランニングメイトとして有力視していたのは以下の3人。①東部ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事(51)、②西部アリゾナ州選出のマーク・ケリー上院議員(60)、③ワルツ知事の順だった。厳格に言えば、米 CNNは前日午前にハリス氏の伴走者はシャピロ、ワルツ両氏に絞られたと報じている。シャピロ氏は大統領選の分岐点とされる激戦州のペンシルベニア州知事であり、同州内選挙にも強い上にディベート能力も高く本命視された。パレスチナ自治区のガザ情勢を巡る紛争でイランとイスラエルが戦火を交える可能性も取り沙汰される中、民主党支持の女性・若者にはパレスチナに同情的な有権者が多いことから、ユダヤ系の同氏の起用を見送ったという。対抗のケリー氏は商船大学校を卒業後、海軍大学院を修了。米海軍(大佐)退役後に米航空宇宙局(NASA)入りして宇宙飛行士(宇宙滞在期間54日)として活躍したことで高齢白人男性にはヒーローに映る。民主党の中で不法移民取り締まり強化派の筆頭でもあり、ハリス氏のリベラル色を薄めることが出来る。
加えて、ペンシルベニア州を失ってもサンベルト(ネバダ州とアリゾナ州)で勝てるとの判断があった。だが、負けた場合の上院1議席減リスクを無視できず採らなかった。
では、大穴のワルツ氏が副大統領候補の座を射止めた最大の理由は何だったのか。先ず挙げられるのは、その豊富な政治キャリアと選挙に強いことである。2006年の連邦議会下院議員(ミネソタ州選出)初当選以来6期12年間歴任。選挙区は共和党が強い農村地域の第1区。18年州知事選で初当選、現在2期目。選挙に強い地元の隣接州は激戦のウィスコンシン州だ。政界入り前は生まれ故郷のネブラスカ州で公立高校社会科教員と同校アメリカンフットボール部コーチ、州兵として24年間従事など“派手さ”がない。▶︎
▶︎実は、この派手さがないが堅実で実直なワルツ氏こそがハリス氏自身とその参謀たちのお眼鏡に適ったのである。ジョー・バイデン政権が誕生と同時に、駐日米大使として東京に着任したラーム・エマニュエル氏はオバマ政権時代に大統領首席補佐官を務めた大物であり、以前から2028年大統領選の民主党大統領候補指名に意欲を持つとされる。
もちろん、ハリス氏が今秋大統領選に勝利すれば当然ながら2期目を目指すのでエマニュエル氏の目は無くなる。そのエマニュエル氏が「ハリス陣営は個性の強い人物を好まない。それがハリス人事である」と語っていたという。 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT。7月26日付)の記事「Team Kamala: the people behind Harris’s White House run ― From Hollywood to Wall Street, the vice-president is backed by an array of advisers, strategists and donors(チーム・カマラ:ハリスのホワイトハウス運営を支えた人々――ハリウッドからウォール街まで、副大統領は多数の顧問、戦略家、寄付者によって支援されている)」に実に多くの固有名詞が挙げられている。米投資会社エバーコアの創業者ロジャー・アルトマン元財務副長官、投資顧問最大手ブラックストーンのジョナサン・グレイ社長兼COOなど財政支援者ではなく、民主党ストラテジストのドナ・ブラジル氏やバイデン選対委員長だったジェン・オマリー・ディロン氏などプロフェッショナルがハリス氏に助言することは唯一つだった。「インナーサークルに目立ちたがり屋(attention whore)を入れるな」である。ティム・ワルツ氏はまさにその典型人である。ハリス民主党大統領候補が語ったとされる「人柄や相性のよさに魅かれた」はこの助言に従ったのだ。トランプ氏のランニングメイト、J・D・バンス共和党副大統領候補はワルツ氏とは真逆の政治家である。副大統領候補のテレビ討論も楽しみである。米ニュースサイトAxiosは何と「ハリス政権」のラインアップを紹介している。大統領首席補佐官:先述のディロン氏(女性)かエリック・ホルダー元司法長官(黒人)、国務長官:クリス・クーンズ上院議員(デラウエア州選出)かビル・バーンズCIA長官、財務長官:ジーナ・レモンド商務長官(女性)、国防長官:ミッシェル・フロノイ元国防次官(女性)、大統領補佐官(国家安全保障担当):フィル・ゴードン副大統領補佐官かトム・ドニロン元大統領補佐官――。何とも気の早いことです。