岸田文雄首相は8月14日午前11時半からの記者会見で、9月の自民党総裁選に立候補しないと表明した。
筆者は同日早朝、羽田発札幌行きの機中のニュース速報で岸田氏不出馬を知った。仰天した。 青天の霹靂とはまさにこのことだ。実は、2泊3日の家族旅行を事前にセットしていた。当コラム締切りは毎週金曜日。因って、旅立つ前にアシスタントに送稿してもらう段取りをつけていた。ところが、である。何と、書き置いた原稿の中身が“真逆”だったのだ。白状すると、結果として事実とは反対の予想を記述したのである。
実は、次のような見立てを書いた。自民党総裁選挙管理委員会(逢沢一郎委員長)は8月20日、総裁選日程(9月5日告示・同20日投開票)を正式決定する。その報告を受けた岸田氏は直後に自身の電撃出馬表明を行う。しかも事前の麻生太郎副総裁の同意を得ずしてだ。その狙いは、茂木敏充幹事長の出馬阻止のための先制攻撃である……。
説明する。茂木氏の出馬には麻生氏の同意が絶対不可欠だ。それは同時に、麻生氏が再選に強い意欲を隠さない岸田氏出馬支持に踏み切らなかったことを意味する。
すなわち、もともと岸田、茂木氏の出馬は麻生氏次第だったのである。このタイミングで総裁選不出馬を決断したのは麻生氏に首根っ子を押さえられているだけではない。出馬を強行しても総裁再選の確信シナリオを描けなかったことが大きい。この間、党内に定着した世代交代待望論を無視できなくなったのだ。実名を挙げれば分かりやすい。旧派閥を超えた支持を得て立候補する小林鷹之前経済安全保障相(49)と、麻生氏との覇権抗争を進める菅義偉前首相が推す小泉進次郎元環境相(43)の2人。外交・安全保障や経済・エネルギーで実績を誇る岸田氏だが、さすがに「選挙の顔」として相応しいのかと問われて腰が引けたのであろう。
そうだとしても岸田氏の引き際は、指弾されるのではなく、むしろ褒められるべき事だ。記者会見要請のタイミングもドンピシャである。岸田氏はこう言った。「新総裁のもとで<中略>真のドリームチームを作ってもらいたい」――。茂木、小泉、小林各氏と石破茂元幹事長、高市早苗経済安保相、河野太郎デジタル相が出馬する。
では「ドリームチーム」のトップに誰を思い巡らしてこの言葉を使ったのか。分からない。たとえ袂を分かったとはいえ、岸田、麻生氏共に石破氏は念頭にない。小泉氏は許容するのか。否。消去法でいくと、河野氏となる。果たして如何に。