9月12日の告示を前に自民党総裁選は、熾烈な権力抗争の様相を帯びてきた。そんな中で筆者は先週後半、仏紙フィガロのレジス・アルノー東京支局長と昼食を交えて長時間話をする機会があった。テーマはもちろん総裁選。来週は英誌エコノミストのノア・スナイダー東京支局長と会食する。欧州主要国のフランスとイギリスの新聞、週刊誌もさすがに世代交代が期待される日本の政権党トップを決める総裁選には関心があるようだ。アルノー氏との会話の中で彼が強い関心を示したのは政策の際立つ違い。
特に、各候補の①金融所得課税強化②選択的夫婦別姓③防衛力強化・子育て支援増税についての立ち位置を知りたがった。本稿ではアルノー氏の問題意識に沿って論考を進める。課税強化を主張する石破茂元幹事長、反対する小泉進次郎元環境相と小林鷹之前経済安全保障相。夫婦別姓容認が河野太郎デジタル相、茂木敏充幹事長、石破、小泉氏で、反対は高市早苗経済安全保障相と小林氏。増税容認が林芳正官房長官、小泉、小林氏で、反対は何と茂木氏である。▶︎
▶︎この立ち位置は、必ずしも政治信条が保守、リベラルの違いと一致しない。それでも報道レベルでの色分けに従えば、保守が高市、小林両氏であり、リベラル系は河野、小泉、林氏である。保守の茂木氏は超リアリストでもある。日本テレビが5日に公表した自民党党員・党友調査によると、「誰を支持?」の回答は1位石破氏28%、2位小泉氏18%、3位高市氏17%。茂木氏は同調査で2%の9位である。その茂木氏が立候補表明した4日の記者会見で、「増税ゼロ」の推進を公約として披瀝したのには驚いた。岸田文雄首相は防衛政策の大転換を成し遂げたことに強い自負がある。即ち、22年末に防衛費の大幅増額や反撃能力の保有などを盛り込んだ防衛3文書改定を閣議決定した。因って防衛費をGDP比で2%に増やすためその財源を法人・所得・たばこ税の増税で賄うということになった。
要は、防衛増税を実施すると内外に公約した。ところが岸田政権の幹事長である茂木氏がそれを否定したのだ。首相周辺は「やはり明智光秀だったのか」と言うのも宣なるかなである。だが、茂木氏の胸中を読む解説はこうだ。「小泉首相」になっても来夏の参院選で敗北・退陣を余儀なくされる。ここは独自色を打ち出してその日に備えるという。これこそが深謀遠慮であろう。