自民党総裁選の展開は予想を大きく外れて高市早苗経済安全保障相が、失礼ながら想定外の大健闘を見せしていることで、霞が関はその対応に追われて大わらわである。立候補者9人が争う自民党総裁選の1回目投票(国会議員票368票と党員票368票の計736票)で過半数を獲得する者はおらず、直ちに実施される決戦投票(国会議員票368票と党員票47票の計415票)で決着が付く。
永田町ウォッチャーは、ずば抜けた国民的人気を誇る小泉進次郎元環境相、地方党員・党友から手堅い支持がある石破茂元幹事長、安倍晋三元首相路線の継承者を自任する高市経済安全保障相の3人中の2人がファイナルラウンドに進出するとみている。因って現状では、小泉vs石破、小泉vs高市、石破vs高市のシミュレーションを報道各社の政治記者から主要省庁官房の政治担当者までが自分たちが築いた人脈を通じて、例えば其々の「首相事務秘書官」候補を探り出すべく情報収集に全力を挙げている。先ず指摘すべきは、筆者を含めて多くの永田町ウォッチャーの中で、高市氏が1回目投票で首位争いに加わる、日経新聞世論調査の質問「次期総裁に誰が相応しい?」で高市氏が小泉氏を上回わると予想した者はほぼ皆無であることだ。
ではなぜ、高市氏が次期総理・総裁候補に躍り出ることになったのか。某全国紙の選挙班在籍経験もある政治記者は以下の3点を挙げる。①党員票はメディアが考える以上に保守的②他陣営から批判を受けた「政策リーフレット」が効果を発揮している③上川陽子候補(外相)の伸び悩みで女性宰相期待が高市候補に集まっている――。
実は、これ以外にも高市急浮上効果をもたらしたと思われる理由がある。7月の東京都知事選で立憲民主党の蓮舫前参院議員に大差を付けて2位となった石丸伸二候補(前広島県安芸高田市長)の選対事務局長を務めた藤川晋之助氏が高市選対の参謀に就いたのだ。“石丸旋風”の仕掛け人である。藤川氏はかつて小沢一郎氏が自民党を割って出た直後の同氏選挙チームの一員であり、旧民主党の小沢代表時代に選挙担当顧問でもあった。古い時代の「選挙のプロ」と切り捨てるべきではない。▶︎
▶︎都知事選で田中角栄流の「地べたを這いずり回る選挙戦」を石丸氏に強いた。今回総裁選前から精力的に地方講演に取り組み、さらに小さな集会・勉強会でも聴衆一人ひとりの手を握りその目を見て自分をお願いしますの声掛けを繰り返してきたという。全国の講演行脚に傾注してしたのだ。
少なくとも筆者は、高市氏を甘く見ていた。「右に寄り過ぎる」、「政策の中身が薄っぺら」として端から拒絶反応を示していた。当然ながら政治理念・信条は全く異にする。それでもファクト・ファインディング・ライター(事実を追い求める記者)を自任する筆者は「高市関連」ネタの深掘りを怠っていたことを反省したい。この1週間に主要省庁トップ2人と長時間、意見(情報)交換する機会に恵まれた。そのうちの一人は、筆者に「高市首相」は全く想定外であり、“備えあれば憂いなし”の真逆で高市首相事務秘書官人事など手付かずどころか、頭の片隅にも無かったと溢していた。 こうした状況の中、さすがに財務省(新川浩嗣事務次官)と思わせたのは、信憑性は措いて、同省出向の首相秘書官(事務担当)に奈良県出身の八幡(はば=ルビ)道典金融庁企画市場局参事官(資産運用担当・1994年旧大蔵省入省)を充てる用意があると聞いたからだ。主計局主計官(厚生労働第一係)、主計局総務課長など主計畑のエリートコースを歩んでいる同氏だが、実は内閣官房内閣参事官として首相官邸に出向時代、内閣官房人生100年時代構想推進室参事官、内閣府地方創生推進事務局参事官(地域再生担当)を務めている。
すなわち、前者の関係で言えば小泉氏、後で言えば石破氏が其々首相に就いた時の秘書官(事務担当)も務まる。財務省は手の内に小泉、高市、石破3氏の「誰が首相でもオーケーよ」の人材を抱えているのである。「省の中の省」を自負するだけあってさすがだ。現時点で、小泉vs石破であれば小泉氏、小泉vs高市となっても小泉氏であるが、石破vs高市での勝者は予想がつかない――が正直な見立てである。結果は27日に判明する。果たして次期総裁(首相)は誰なのか。