10月1日に出帆した石破茂政権の航海は前途多難である。就任前は「首相にしたい人」の世論調査でいつもトップを占めていた。いざなってみると「言っていることと,やることが違う」と悪評芬々である。早々に消えた石破カラー(「正論を言う人」)に国民は失望し,早くも短命政権で終わるのではないかという観測すら出る。新政権誕生後数カ月はメディアが批判を控える「ハネムーン」期間のはずだが,出だしからパンチを浴びて新婚旅行どころではなくなった。
9月27日の総裁選に勝利した瞬間から,株式市場は「NO」を突き付ける。東京証券取引所の日経平均株価(同30日)が終値で1910円超も下げる暴落となった。「反アベノミクス,経済オンチ」のレッテルは,国内外の投資家に「自民党は内部崩壊するのでは」と動揺をもたらした。新内閣のメンバーからして「訳あり商品在庫一掃セール」と揶揄される。村上誠一郎総務相,小里泰弘農水相,伊東良孝地方創生相ら6人は総裁選で石破推薦人である。論功行賞の色彩が濃い。党役員人事を含め,岸田文雄前首相が望んだ「ノーサイドのあとはドリームチーム」とは程遠い陣立てだ。久米晃元自民党事務局長は『東京新聞』(web。10月5日12:00発信)で「石破首相は(自民党)史上最弱の党内基盤。兵隊も軍師も参謀もいない。▶︎
▶︎強いて言えば海部俊樹政権に似ている」と分析する。想起すれば,小泉純一郎政権は「軍師」の飯島勲首相政務秘書官(現内閣官房参与)が仕切った。安倍晋三政権は「安倍命」の今井尚哉首相政務秘書官(後に首相補佐官・現キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)が捌いた。岸田政権では「政策」の嶋田隆首相首席秘書官(10月1日付で失職)が担った。岸田政権ではさらに外交・安保は秋葉剛男国家安全保障局長が全体を俯瞰,最側近の木原誠二前幹事長代理(現選対委員長代行)が調整総括官となって動いた。石破周りには残念ながら誰もいない。所信表明演説の冗漫さは,急ごしらえで召集された首相事務秘書官チームの合作なのかと疑う。
極め付けは,新内閣のひな壇記念撮影で,石破のモーニングコートと縞ズボンのベルトからお腹の部分の白いシャツがはみ出したことから「だらし内閣」とコケにされ,ワイドショーも取り上げたので官邸が写真修正したことだ。そもそもモーニングのズボンにはベルトではなくサスペンダーである。信じ難いことだ。周囲に目配りする人がいないと,徒手空拳で党内にも野党にも立ち向かわなければならない。石破は幹事長に菅義偉元首相と岸田前首相が推した森山裕前総務会長を据えた。これが「両刃の剣」である。党人派の森山は多様なパイプを持ち調整力に定評がある…(以下は本誌掲載)申込はこちら