【い】いったん諦めた総理の座【し】しんどかったな冷や飯食い【ば】バカにされたよ「人づき合い」【し】しからば見返す5度目の挑戦【げ】「ゲゲゲの鬼太郎」鳥取県【る】ルンルン気分で官邸入り 石破茂第102代内閣総理大臣が誕生する前日の9月30日に自身のホームページの連載コラムで紹介した、名前の各字を読み込んだ戯れ歌である。
自民党総裁選挙1回目投票で党員109票の1位、国会議員票72票も2位で石破氏を上回った高市早苗氏(前経済安全保障相)との決選投票は、石破氏が議員票189票で高市氏の173票を僅か16票上回り辛勝した(都道府県票は石破氏26票、高市氏21票)。よって石破氏の党内基盤が脆弱であることは論を俟たない。石破氏は必ずしもルンルン気分で首相官邸の主となったわけではない。案の定、自らの予想をはるかに超えた難題・難問が待ち受けていた。自民党派閥の政治資金規正法違反事件を巡り、収支報告書に不記載があった議員の衆議院議員選挙(10月15日公示・27日投開票)の党公認・非公認の判断について新たな方針を打ち出す必要に迫られたのだ。それは、報道各社の最新世論調査に一目瞭然であった。一例を挙げる。共同通信社調査(10月1~2日実施)では内閣支持率50.7%、不支持率28.9%(読売新聞、日本経済新聞ともに内閣支持率51%、朝日新聞46%)。石破氏が看過できなかったのは、共同通信の質問「石破首相に交代したことで、自民党の政治とカネの問題が解決に向かうと思いますか?」に対し「向かうと思う」22.8%、「向かうと思わない」73.0%との数値あった。
その直後、石破氏の危機感は沸点に達した。自民党独自の極秘情勢調査(10月5~6日)を実施、次期衆院選は自民、公明両党合わせて過半数233議席をかろうじて上回る程度と報告を受けたのである。党内融和を主張する森山裕幹事長の助言を容れて「裏金事件」に関与した議員(ほとんどが旧安倍派の議員)らを衆院選で原則公認、比例重複とする方向で調整に入ったことが裏目に出た。石破氏は衆院解散前の5日夜と6日午後の2日連続、東京・永田町の自民党本部4階の総裁応接室で森山幹事長、小泉進次郎選挙対策委員長と長時間協議。所信表明演説では「納得と共感」を掲げた石破氏だが、一転して次期衆院選で非公認とする線引きについて抑止策へ大きく舵を切った。4月の党処分で党員資格停止になった下村博文元文部科学相、西村康稔元経済産業相(以上1年)、高木毅元復興相(6カ月)と、党役職停止の萩生田光一元政務調査会長、三ッ林裕巳衆院議員、平沢勝栄元復興相(以上1年)の6人は非公認となった(平沢氏のみ旧二階派)。
その後、旧安倍派不記載議員の小田原潔元外務副大臣ら6人(党役職停止6カ月と戒告)の非公認が追加された。不記載議員は比例区との重複立候補が認められなくなり、比例単独議員にとって非公認は事実上の失職となる。当然ながら、解散総選挙の直前の決定に対し党内から「なぜ今なのか」と不満が噴出した。
故・安倍晋三元首相に遺恨を持つとされる石破氏の“安倍派潰し”との声が上がった。同派の面々は「党を分断する史上最低の決断だ」と猛反発。高市氏支援勢力は早くも「次のチャンスは来夏に到来」と意気軒高だ。石破内閣の航海は前途多難。政治は容赦ない。出だしでちょっと躓いただけでたたかれる。気の早い永田町ウォッチャーは、石破政権がいつまで持つかに関心を向け始めた。衆院選で自民党が単独過半数を割れば、たとえ自公合わせて過半にギリギリ届いても、石破氏の求心力は急低下する。▶︎
▶︎仮に与党で過半に達しなければ総裁と幹事長の引責辞任は不可避だ。宇野宗佑元首相の在任期間69日を更新して最短政権となる。衆院選をクリアしても来年7月の参院選が待つ。政権選択選挙ではない参院選はすでに与党の苦戦が予想されている。ここで負けたら財務省を筆頭に霞が関が懸念する衆参ねじれが生じ、国会で法案審議・成立が滞り、国家運営に大きな支障を来す。
それでも石破政権に頼るべきよすががあるとすれば、今や石破氏の背後に菅義偉元首相と共に控える岸田文雄前首相の存在があるからだ。最近の岸田氏はすこぶる機嫌がいい。ある種の達成感があるためだ。 首相決断の“最後っ屁”となった9月25日の海上自衛隊護衛艦「さざなみ」の台湾海峡通過に対する評価が極めて高い。バイデン米政権を筆頭にアルバニージー豪政権、ラクソン・ニュージーランド政権、マルコス比政権など「台湾有事」を警戒する国々の政権が相次いで絶賛した。中国は日本領空侵犯を繰り返し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を太平洋の公海に向けて発射するなど軍事的な威圧を強めていた。
日本に新政権が発足する前に中国を牽制しておく必要があると判断した岸田首相が米国滞在中の同21日午後(米東部時間)、盗聴防止器付き電話で木原稔防衛相(当時)に出動命令を発出したのだ。マクロ経済情勢を示す統計が一目瞭然である。岸田政権発足時(2021年10月)と24年(直近)を比較すると、名目GDP(国内総生産):551.4兆円➡607.9兆円、企業収益:84.0兆円➡104.5兆円、日経平均株価:2万8444円➡3万8700円。税収額、経常収支、消費者物価指数のどれも改善した。国内投資(設備投資と直接投資)も増え、賃金は1.78%➡5.10%と上昇を果たした。日本経済の成長と国民の資産所得につなげる「資産運用立国」策定は岸田氏のレガシーと言える。石破氏が岸田路線を継承したのだ。国内外の市場関係者は好感する。ともあれ石破氏は羅針盤を頼りに大嵐を乗り切る操舵ができるのか、27日にわかる。