首相官邸関係者の間で今,箝口令が敷かれているのは,石破茂首相の最側近である赤澤亮正経済再生相(衆院当選7回・鳥取2区)が政府の主要政策決定過程に一閣僚の矩を踰えて関与することで官邸内不協和音を招きかねない「赤澤案件」である。政権発足当初から石破の“精神安定剤”と称される赤澤には官邸内に部屋が用意されているとの噂が流布されていた。5階の首相と官房長官の動線に係らない眺望のない小さな部屋(安倍晋三首相当時の今井尚哉首相補佐官が使用していた)が赤澤別室である。赤澤が週1回の頻度で外務省の今福孝男官房審議官(総括担当・1993年入省),財務省の一松旬官房審議官(大臣官房担当・95年旧大蔵省),経済産業省の香山弘文官房政策統括調整官(重点政策高度化担当・同年旧通商産業省)を召集,その場で政権運営の日程概略から主要政策の概要などを論議する。その後,赤澤は首相会議室に向かう。
そこには待機する石破を始め橘慶一郎(衆院6回・富山3区)と青木一彦(参院3回・鳥取=島根選挙区)両官房副長官(政務担当),佐藤文俊官房副長官(事務担当・79年旧自治省入省),槌道明宏(85年旧防衛庁)と吉村麻央(石破議員政策秘書)の両首相秘書官(政務担当)以下,首相秘書官(事務担当)6人の中島朗洋(財務省・93年旧大蔵省),熊木正人(厚生労働省・同年旧厚生省),井上博雄(経産省・94年旧通産省),土屋暁胤(警察庁・95年同庁),吉野幸治(防衛省・95年旧防衛庁),貝原健太郎(外務省・96年同省)を前に,先の議論で仕込んだ「提言」を披瀝するというのである(前捌き会合出席者のうち一松のみが記録係として参加)。▶︎
▶︎このような形式の会議は寡聞にして聞いたことがない。前代未聞である。そもそも官邸のリポーティングラインを無視している。
一例を挙げる。長期政権を誇った安倍首相時代,この種の政権運営に深く関わる少人数会合は安倍以下,菅義偉ら正副官房長官4人に今井首相補佐官(兼首相政務秘書官),協議テーマに関与する首相事務秘書官,そして課題によっては杉田和博官房副長官(事務担当・66年警察庁)や谷内正太郎(69年外務省),北村滋(80年警察庁)両元国家安全保障局長が加わるといった段取りで進められていた。
だが,石破官邸の政務・事務担当官房副長官3人と政務・事務秘書官8人全員がいて,なぜ,林芳正官房長官だけがその場にいないのか。政局含みの「林外し」の前触れなのか。真相はよく分からない。しかし,“在るべき”官邸機能を知る者には「二重権力構造」「官邸機能不全」の予兆と映るのではないか…(以下は本誌掲載)申込はこちら