冒頭から手前味噌で恐縮だが、お許し頂きたい。筆者が編集・発行するニュースレター「インサイドライン」(11月25日号)のトップ記事「首相官邸の秘事『赤澤案件』とは?」が政治関係者の一部で話題となっている。「赤澤」とは、石破茂首相最側近とされる赤澤亮正経済再生相のことだ。概略を簡単に紹介する。石破内閣の一員である赤澤氏が首相執務室と同じ官邸5階に「別室」を得て、外務、財務、経済産業省の官房幹部を招集して政権運営に関わる課題について協議している。これを読む限り、読者は何が問題なの?と思うのではないか。実は由々しき問題なのだ。首相官邸の統治システムは次のようなものである。政治家は内閣総理大臣(首相)以下、内閣官房長官、内閣官房副長官(政務担当)が衆参院から各1人の計4人が官邸のいわゆる住人である。
そこに加えて、政権によって専任の首相補佐官が数人任命されるケースが最近は多い。近過去の政権で言えば、7年8カ月の安倍晋三長期政権の中枢を占めた今井尚哉首相補佐官兼政務秘書官の存在が想起できよう。石破現政権では、先週、米ワシントンを訪れた長島昭久首相補佐官(外交・安全保障担当)である。同氏はトランプ政権のホワイトハウスで大統領上級顧問に就くとされるウィリアム・ハガティ上院議員(前駐日大使)らと会っている。
何が言いたいのか。赤澤氏がたとえ石破氏の“精神安定剤”的存在であるとしても官邸内のリポーティングラインを無視すれば、官邸が機能不全に陥りかねないのだ。「権力の二重構造」といった批判を招来する。▶︎
▶︎事はそれだけではない。赤澤氏は先の主要3省幹部と協議した諸課題を自らの「提言」として、首相会議室で石破氏をはじめ官邸幹部が居並ぶ前で披瀝するというのだ。その官邸幹部とは、政務・事務担当の官房副長官3人、首相政務秘書官2人、事務秘書官6人の計11人である。官邸のオールスターキャストの揃い踏みだ。これが石破氏の了解を得たものであれば、事は余計に複雑となる。
なぜならば、その「赤澤プレゼン」に林芳正官房長官が出席していない。外したのだ。永田町で早くも「石破政権短命」説が流布されている。石破氏後継の最有力候補は林氏である。すなわち、政局の兆しなのだ。第216回臨時国会の首相所信表明演説を精読した。だが、三本柱の2番目「日本全体の活力を取り戻す」の経済政策は余りにも貧困である。故に1番目を「外交・安保」にしたのか、疑った。要は、石破氏の言葉が心に響かないのだ。