師走に入るや政界関係者の多くが、自民党の小林鷹之元経済安全保障相(50歳・衆院当選5回)の党内存在感が急速に高まりつつあると口を揃えるようになった。来春にも「後継総裁政局」が出来するとの見立てが永田町ウォッチャーの間では支配的である。早くも石破茂首相(党総裁)の後継を巡り党内が色めき立って来ているのだ。
そして小林氏はその騒めきの渦中にいる。仲間内で「コバホーク(コバタカ)」と呼ばれる同氏をいち早く見出したのは当選13回を誇る大物・甘利明元幹事長であった。2021年10月の岸田文雄政権発足に当たっては、甘利氏が岸田首相に経済安全保障を担当する閣僚ポストの新設と、初代担当相に小林氏抜擢を助言したことは周知の事実である。10月27日の第50回総選挙で甘利氏が落選したため(比例復活もならず)、自民党は党内各政策組織・機関のトップ人事を余儀なくされた。中でも最も注目を集めたのが経済安全保障推進本部長人事だった。11月11日に開かれた会合で甘利氏の後任として小林氏が本部長デビューを果たした。そして挨拶の中で最優先の課題として「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)」の導入を挙げた。甘利氏がこれまで担ってきた役割がいかに大きかったか。次の人事異動で一目瞭然だ。①税制調査会顧問:甘利氏→森山裕幹事長、②総合エネルギー戦略調査会顧問:甘利氏、二階俊博元幹事長、森英介元法相、中曽根弘文元外相→茂木敏充前幹事長、森氏、中曽根氏、③NTT法のあり方に関する特命委員会委員長:甘利氏→小林氏、④経済安全保障推進本部本部長:甘利氏→小林氏、⑤デジタル社会推進本部最高顧問:甘利氏→岸田前首相、⑥自動車議連会長:甘利氏→森氏+西村康稔会長代理、⑦半導体戦略推進議連会長:甘利氏→山際大志郎元経済再生相、⑧北海道バレー構想推進議連会長:甘利氏→山際氏――。
党税調は別格としても他の組織に通底するのは経済安全保障に関わるイシューであり、それを甘利氏が主導・推進してきたという事実は重い。その甘利氏後継の最有力候補が小林氏なのだ。経済安保関連だけではない。▶︎
▶︎実は11月6日に自民党税制調査会(会長・宮澤洋一元経済産業相)の「インナー」と呼ばれる幹部(会長、顧問、小委員長、幹事など9人)の非公式会合が開かれた。新たにメンバー入りした小渕優子組織運動本部長(衆院当選9回)、齋藤健前経済産業相(6回)、上野賢一郎元財務副大臣(同)、そして小林氏が出席した。こちらも甘利氏の後を追いかけているかのようだ。因みに9月の総裁選で小林氏を支持した福田達夫幹事長代行(57歳・5回)は、一足先に税調インナー・メンバー入りしている。
筆者は最近、小林氏、同氏と絶妙なコンビを組む前三重県知事の鈴木英敬選挙対策副委員長(2回)両氏からじっくり話を聞く機会を得た。「なぜ、いま小林鷹之なのか」を探堀りするためだ。筆者の際どい質問にも瞬発力で当意即妙な答えを返す鈴木氏の同席が奏功したと感じた。一方の小林氏は一拍おいて答える様相であり、それが逆に同氏の泰然自若さを際立てる印象である。まさに絶妙なコンビと言えよう。冒頭の「師走に入るや」に戻る。11月28日に衆院第二議員会館内の会議室で催された総裁選小林氏応援の国会議員(当落選者共に)の慰労会で、小林氏を中心とする勉強会設立が提起された。日本経済新聞(電子版。28日20:15配信)は「自民・小林鷹之氏、勉強会立ち上げへ 次期総裁選見据え」の見出しで大きく報じた。勉強会で小林氏が掲げる国家戦略などのビジョンや政策について意見交換すると報じられたが、果たして具体策はあるのか。先ずは立ち上げの時期である。ズバリ聞いた。「年内発足」と即答。次に、中堅・若手の国会議員からスタートするの?これにも間髪入れず臨時国会終了後年末までに始めると言う。年始早々から地方行脚を行う。地方議会の方々にも門戸を開きたい、とも。ともあれ小林氏の問答にはスピード感が溢れている。清々しさも感じる。
そして鈴木氏がコンビよろしく小林氏に代わって断じた。25年度政府予算案成立を巡る与野党攻防の中で起こり得る「4月政変」を視野に入れている――。どうやら総裁選出馬の意思に揺るぎはないようだ。