2025年6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、カナダ西部アルバータ州カナナスキスで開かれる。だが、このG7サミットの先行きに早くも風雲急を告げる。開催が危ぶまれているというのではない。果たして主要7カ国の首脳は、世界がいま直面する多くの難題解決に向けて建設的、且つ具体的な議論を通じて前に進むことが出来るのだろうか。
残念ながら、それは極めて難しい。理由は幾つもある。先ずは議長国カナダのジャスティン・トルドー首相がすでに辞任表明していることだ。9年間の長きにわたって首相の座にあったトルドー氏は昨年11月の米大統領選以降、ドナルド・トランプ次期大統領によって不法移民・麻薬フェンタニル流入問題から全ての輸入品に対する追加関税25%賦課に至るまでトコトン弄られてきた。カナダも他の西側主要国同様に、景気減速や積極的な気候政策などリベラル路線への不満が高まり与党・自由党の弱体化の上に世界的な反移民感情の波に呑まれてトルドー政権の支持率は低下の一途を辿った。
さらにトランプ氏は、こうした内政問題を抱える上に国内で右派ポピュリズムが台頭するフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのオラフ・ショルツ首相を狙い撃ちしてきた。そして標的にトルドー氏が加わったのだ。ドイツは2月23日に総選挙が実施される。ショルツ氏率いる社会民主党(SPD)中軸の3党連立政権が崩壊したからだ。調査会社INSAによると野党第1党のキリスト教民主同盟(CDU/CSU)が支持率31%の首位だが、看過できないのは15.5%のSPDが極右の21.5%のドイツのための選択肢(AfD)の後塵を拝していることである。
何が言いたいのか?そう、今やトランプ氏の盟友というよりも「共同大統領」と呼ぶべき世界一の大富豪イーロン・マスク氏は連日、ドイツに右翼政党AfD中心の政権を樹立すべきと自ら所有するX(旧ツイッター)で発信している。それだけではない。キア・スターマー英首相の検事総長時代についても執拗な批判を繰り返す。トランプ、マスク両氏に「政治介入」という言葉は存在しない。▶︎
▶︎そうした中で筆者が、とくに注目するのはイタリアのジョルジャ・メローニ首相(48歳)である。メローニ氏ほど毀誉褒貶が激しい政治家はG7構成国には見当たらない。15歳でネオファシズム政党「イタリア社会運動(MSI)」に参加、2006年総選挙で下院議員初当選、12年にファシスト政党「イタリアの同胞(FdI)」を結成。22年9月の総選挙でFdIが第1党になり、同10月にセルジョ・マッタレッラ大統領から首相に指名された。かなり前だが、1996年の仏ニュース番組のインタビューで伊独裁者ベニート・ムッソリーニを「過去50年間で最高の優れた政治家」と絶賛した。もちろん、中絶、安楽死、同性婚などに断固反対し、フェミニズムについても「極右のフェミニスト」を自任する。不法移民にも厳しい。一方、ロシアによるウクライナ侵攻を批判し、当初は容認したが中国の「一帯一路」構想から離脱した。
さて、肝心なのはそのメローニ氏とトランプ、マスク両氏との間合いである。メローニ氏は事前通告なしに1月4日、米フロリダ州にあるトランプ氏の別荘「マーラ・ラゴ」を訪れた。歓迎夕食会に同席したマルコ・ルビオ次期国務長官、マイク・ウォルツ次期大統領補佐官(国家安全保障担当)を前に、トランプ氏は高らかに「彼女は本当に欧州を席巻した」と宣言したのだ。
それだけではない。実は昨年12月7日、パリでのノートルダム大聖堂の再開記念式典後に開かれたマクロン大統領主催夕食会でトランプ、マスク両氏とメローニ氏はメチャ盛り上がっていたと米CNNが報じている。9月はニューヨークでの米シンクタンク大西洋評議会主催イベントに参加したマスク氏はメローニ氏を「外見よりも内面がさらに美しい」と熱烈称賛した。2人の「ロマンチックな関係」説が欧州メディアで流布される所以である。それは措いて冒頭のG7サミットだ。マスク氏口撃の標的であるスターマー氏、最古参マクロン氏は支持率が過去最低、トルドー、ショルツ両氏は選手交代、トランプ、スターマー両氏と我が石破茂首相は初出場、そして今やベテランの域に達したメローニ氏の計7人。このままではG7 カナナスキス・サミットは「メローニ・トランプ=マスク連合」に乗っ取られかねない。