首相官邸周辺から聞こえてくるのは,俄かに信じられないのだが,なぜか自信を抱く石破茂首相がかなり力んでいるというのだ。
7月の参院選は昨年10月の総選挙で少数与党となった自民,公明両党が125議席の過半数を維持できるかどうかが最大の焦点である。自公の非改選議席は75(関口昌一議長,比例繰り上げ当選を含む)であり,改選議席50を確保する必要がある。即ち,自公の改選議席は66議席なのでマイナス16議席まで許容される。仮に50議席を割り込んだら,「自公」超えの連立政権を樹立できなければ自民は2009年同様に下野を余儀なくされる。
それを回避するには「もし玉(木雄一郎)」「もし前(原誠司)」「もし野田(佳彦)」のいずれかを選択せざるを得なくなるかもしれない。94年6月の「自社さ」連立政権では,当時の自民は首相を社会党委員長の村山富市,蔵相を新党さきがけ代表の武村正義に渡して政権を死守した。だが石破は今回,参院選はそこまで大負けしない,実質的に勝てると踏んでいるというのだ。換言すれば「のりしろ」ならぬ「負けしろ」があると読んでいる。そこにリアリティがあるのかに疑問は残る。しかし石破はそれほど意に介していない。▶︎
▶︎それよりも20日正午(米東部時間),再登板を果たしたドナルド・トランプ大統領との会談一点に全神経が向いているというのだ。石破,トランプ両首脳を単純比較すれば,「理詰めの石破」と「直観のトランプ」になるだろう。外交用語の「ケミストリー」は相性であるが,その伝で言えば,石破とトランプは端からケミストリーが合わない。となると会談準備に余程の注力を割かなければ,とても「ディール・メーカー(取引交渉人)」の化身・トランプに立ち向かえないと承知しているのか,焦りがあるようだ。故安倍晋三元首相がトランプと計15回21時間40分も会談している(2016年11月のニューヨーク・トランプタワーでの大統領就任前会談を含む)ことを念頭に,石破が昨年12月の読売新聞インタビューで「安倍さんは安倍さんのやり方があり,自分は自分なりにやっていきたい」と語ったことは,何事につけ安倍を強く意識している証しである。
では,石破に安倍と張り合う意識があるとして自ら描く日米同盟を基軸とする外交・安保政策は果たして如何なるものなのか。先ずは官邸周辺で囁かれている石破外交への疑問に答えてもらう必要がある。それは昨年11月の首相南米2カ国訪問に関する案件だ。同15~16日,ペルーの首都リマでアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開かれた。問題視するのは16日の会議終了後各国首脳が記念撮影に臨んだ際に石破だけ不参加だったことだ…(以下は本誌掲載)申込はこちら