米ホワイトハウス(WH。大統領府)の18エーカー(約72843平方㍍)に及ぶ敷地内にあるアイゼンハワー・エグゼクティブ・オフィス・ビル(EEOB。通称「アイゼンハワー行政府ビル」)は地上6階、地下1階。ドナルド・トランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の戦後外交史に残る激烈な論争を展開したのは、ホワイトハウスのウエストウィング(西棟)にあるオーバル・オフィス(大統領執室)である。この西棟に隣接するのがアイゼンハワー行政府ビルであり、米国の安全保障政策を立案・遂行する国家安全保障会議(NSC)事務局スタッフは同ビルの3階全体を占有する。NSCスタッフは大統領補佐官(国家安全保障担当)、及び米合衆国大統領を支援し、大統領府の「助言・補佐」機能を担っている。国家安全保障担当補佐官がNSC事務局長を兼務する。現補佐官はマイク・ウォルツ前下院議員だ。そのウォルツ氏が訪米した岡野正敬国家安全保障局長と1月13日にフロリダ州の大統領私邸「マーラ・ラゴ」で長時間協議し、2月7日の石破茂首相・トランプ大統領会談実現の道を拓いたのである。ウォルツ、岡野両カウンターパートナーが日米首脳会談のお膳立てを行った。さらに2月28日の決裂した米・ウ首脳会談直後、オーバル・オフィスを退室、別室で待機していたゼレンスキー氏に対し、直ちにWHから立ち去るよう引導を渡したのもウォルツ氏である。専門職と事務職を合わせて約200人とされるNSCスタッフは、大統領次席補佐官(国家安全保障担当)を筆頭に各地域・テーマ担当の責任者(上級部長・部長)がいる。
例えば、日本との関係でみると、国家安全保障担当の大統領補佐官→大統領次席補佐官→アジア担当上級部長→東アジア部長→日本部長のヒエラルキーとなる。NSC上級部長のカウンターパートは外務省の局長である。専門職の大統領特別補佐官(上級部長級)もいる。過去にはその専門性がずば抜けて高く且つ影響力を持ち日本でも名前が知られた大統領特別補佐官がいた。古くはロナルド・レーガン政権時代NSCのガストン・シグール大統領特別補佐官・アジア部長。鈴木善幸政権の行政管理庁長官時代に同氏のお眼鏡に適った中曽根康弘首相の1983年1月初訪米をお膳立てしたのだ。
もう一人はジョージ・ブッシュ(父)政権時NSCのカール・ジャクソン大統領特別補佐官である。筆者は、実はジャクソン氏とアイゼンハワー行政府ビル3階のオフィスで会ったことがある。この30数年、愛用する8穴のシステム手帳1989年版を繰ると、「11月2日(木)am9:30 EEOB カール・ジャクソン補佐官」の記述があるのだ。▶︎
▶︎当時の政界最大の実力者竹下登元首相に近いとされた田中角栄元秘書の早坂茂三氏(故人)が米コングロマリットTRWに招待された。その早坂氏から「米国は初めてなので一緒に行ってくれないか」と言われ、報道カメラマンの山本晧一氏も誘い同行した。ワシントンに到着翌朝にWH を訪れたのである。さすがに防衛・宇宙産業にも手を染めるTRWのセッティングだと感心したのを覚えている。アジア専門家であるジャクソン氏は当時の日米貿易問題でも一家言お持ちの方だった。それにしては同氏オフィスが想像外に狭かったことだけが記憶に残る。
なぜ、このEisenhower Executive Office Building(アイゼンハワー行政府ビル)を取り上げるのか?もちろん、理由がある。先述の米・ウ首脳会談に続く3月4日夜(米東部時間・日本時間5日午後)のトランプ大統領の施政方針演説でもJ・D・バンス副大統領の存在が際立った。演説中のトランプ氏の右後に上院議長でもあるバンス副大統領が着席。テレビ中継映像で終始、トランプ氏と一緒に映り込む。次期大統領に野心を隠さない同氏に対し、イーロン・マスク氏は「トランプ2.0」中に政府効率化省(DOGE)トップとして規制撤廃をトコトン推進して、自分のビジネス帝国拡大を目指す。この2人は共にドナルド・トランプ氏次男のドナルド・“ドン”・トランプJr(政権裏面で最大の実力者)を巡る奪い合いを行っているとされる。
そのマスク氏は今、EEOB2階にある副大統領専用応接室の内装を施して自らの執務室にするべくトランプ氏に働きかけている。一方、WHのジョシュア・フィッシャー総務局長は2月17日、政府がコロンビア地区裁判所に提出した宣誓供述書で、マスク氏は「大統領の上級顧問(Senior Advisor to the President)である」と述べている。ということは、WH西棟1階には空いている部屋が2つあり、マスク氏がそこを拠点にすることもあり得るのだ。そのロケーションはバンス氏執務室とレセプションエリアを越えた廊下の先にある。火花が散るケースが多くなりそうなので、やはりマスク氏はWH内の部屋を確保できない可能性が高い。