石破茂首相が、昨秋の衆院選で初当選した自民党議員15人に10万円の商品券(東京・日本橋の三越が発券した全国百貨店共通1000円券100枚)を配布していたとの朝日新聞(3月13日付の号外)スクープに接し、大変驚いた。むしろ信じられなかった。これまで石破氏が自らの政治師匠を田中角栄元首相と言い募ってきたにしても、この種の商品券、事実上の現金を「ご苦労様の気持ちを込めてお渡しした」との説明は筆者が承知する石破茂像と真逆であるからだ。自民党石破派(水月会)は2015年9月の発足当時、衆院議員17人、参院議員2人の計19人を誇った。
だが、21年に田村憲久元厚生労働相(衆院当選10回)、古川禎久元法相(8回)、後藤田正純元内閣府副大臣(8回・当時=現徳島県知事)、齋藤健前経済産業相(6回)、山下貴司元法相(5回)ら主要メンバーが大量退会し、同派は事実上の解散に追い込まれた。筆者はかつて水月会の元メンバーに石破氏の人となりを聞くチャンスがあった。長い付き合いの中で石破氏からご馳走になったことが一度もないというのだ。その吝嗇ぶりを、「ラーメン一杯どころか、ビール一杯すらも奢ってもらったことがない」と言い切った。
それ故に石破氏の記者会見や国会答弁での説明(商品券10万円×15人=150万円、3月3日の首相公邸での懇親会経費1人当たり約1万5000円=22万5000円の計172万5000円を私費で購った)を俄かに信じることが出来ないのだ。石破がポケットマネーで支出したとの説明を嘘だと言っているのではない。朝日新聞(19日付朝刊)一面トップで、「岸田前首相側から商品券―10万円分、自民議員ら証言―党内で慣習化か」の続報を放った。同紙報道によると、岸田文雄首相時代の22年に公邸で開かれた岸田氏と大臣政務官との懇親会に合わせてやはり10万円の商品券が配られたというのだ(注:当時の大臣政務官38人中の何人が出席したのか、そして22年の何時だったのかの記述はない)。首相公邸での時の首相と比較的若い議員との懇親会=会食が慣習化していたとすれば、石破氏が自ら積極的にこうした「慰労の場」を設営したのではなく、内閣総務官室辺りの古手官僚の助言を深く考えずに入れただけだったかもしれない。▶︎
▶︎今回の商品券問題発後、石破氏その人を理解するためにこれまでのメディア報道を改めてチェックしてみた。これも驚きというか、新しい発見だったのは石破氏の「読書遍歴」である。「サンデー毎日」(3月16日号)に掲載された作家・伊藤彰彦氏の「石破茂首相の出版文化論」がその一つである。伊藤氏と首相との一問一答の中に以下のような件があった。<田中美知太郎(哲学者)と清水幾太郎(社会学者)はとても面白かったし、私の好みに合っていました>。<人生を豊かにするために、三島由紀夫、石川達三、五木寛之、立原正秋といった作家のほとんどの作品を読んできました>。全く知らなかった。朝日新聞の元コラムニスト、故・早野透氏の『政治家の本棚』で紹介された47人の政治家リストに石破氏の名前はない。今通常国会で高額療養費問題や年金制度改革法を巡る首相答弁で「再修正」や「再検討」を繰り返す石破氏を誠実さの表れと言う向きもある。プロテスタント(カルヴァン派)として同氏の「真っ当さ」はクリスチャニティと無縁ではあるまい。それは「読書遍歴」にも窺える。
そうだとしても、いやだからこそ石破氏の「慰労」に対する認識は根本から誤っていたと言わざるを得ない。庶民の常識からあまりにかけ離れている。25年度予算の政府案は衆院を通過し、4月2日には自然成立する。そして後半国会の与野党攻防を通じてオール野党で内閣不信任決議案提出までも進展しまい。すなわち、石破首相の下で都議選と参院選に臨むことになる。問題はその結果である。自民党大幅議席減になれば「石破後継政局」になる。先行きはまだ見通せない。