石破茂首相が、昨秋の衆議院議員選挙で初当選した自民党議員15人に10万円相当の商品券を配布していた、と朝日新聞電子版が3月13日の夜報じた。 驚いた。なぜならばかつて「石破氏からラーメン一杯ごちそうになったことがない」と同氏の吝嗇ぶりを旧石破派議員から聞かされていたからだ。石破氏が開催した懇親会は3日夜、首相公邸で行われた。その会食経費および商品券購入費は私費だったと説明するが、総額180万円余だ。「政治と金」の問題とは無縁の政治家という印象を抱いていたのだが。最新のNHK世論調査(3月7~9日実施)の政党支持率を注意深く見てほしい。月例調査で初めて、国民民主党の支持率が立憲民主党を上回った。国民は8.4%で、立民の7.5%をわずか0.9㌽だが上回り逆転した。他社調査では昨年12月調査で国民が立民を抜いて、“支持率野党第一党”に躍り出ている。読売新聞(12月13~15日実施):国民12%、立民8%。朝日新聞(14~15日):国民11%、立民9%。しかし、NHK調査では12月が立民8.7%、国民7.9%、今年1月が立民8.1%、国民6.4%、2月が立民9.2%、国民6.8%と、立民が国民を上回る状態が続いていた。昨年師走の国民民主の躍進は際立ったが、実はれいわ新選組も今年初頭から上昇気流に乗った感がある。直近の政党支持率で他の野党と比較すると一目瞭然だ。読売新聞(2月14~16日):れいわ4%、日本維新の会3%、共産党2%。朝日新聞(同15~16日):れいわ4%、維新2%、共産2%。昨年10月の衆院選で国民民主、れいわ両党はともにSNSなどに力点を置いた選挙戦略が奏功し、若年層から高い支持を得た。
とりわけ「手取りを増やす」政策をキャッチフレーズに掲げた国民民主は4倍増の28議席に大躍進した。上段のNHK調査に戻る。自民と国民民主の支持率を年代別に比較してみる。自民:18~39歳19.6%、40代16.8%、50代22.9%(以下年代順同)。国民:16.7%、17.4%、10.6%。国民民主は「就職氷河期世代」コアの40代から自民を上回る支持を得ていることに驚く。「手取りを増やす」というフレーズが彼らの琴線に触れたことがわかる。石破氏は2月7日、トランプ米大統領との首脳会談に全力投球で臨み、想定を超えた成果を掌中に帰国した。国内外の評価も高かった。だが、内閣支持率が上がらない。2月の前回調査比で8㌽減の36%、不支持率は10㌽増の45%。肝心の40代では12㌽下がり19%、30代以下の18%とともに10%台に下落した。こちらのキャッチフレーズを少々ひねると、「楽しい日本 苦しい政局」がふさわしいのではないか。
▶︎このNHK調査が発表されると、春到来で地中深く潜っていたモグラが、いや失礼、元気な政治家が自分の出番だと穴から顔を出す。この間、公然活動を控えていた自民の茂木敏充前幹事長は3月10日夜、麻生太郎最高顧問、岸田文雄前首相に声をかけ、3氏は東京・四谷の日本料理店に蝟集した。石破氏は夏の参議院議員選挙(7月20日投開票の見通し)での自民議席の大幅減で党総裁辞任を余儀なくされる可能性が大とみている。それでもなお茂木氏は先行きの道筋が描けない状況にあるようだ。
一方、小林鷹之元経済安全保障担当相は3月9日の自民党大会後、「高額療養費制度」の8月からの自己負担額引き上げを見送った石破氏の判断を、「政策の意思決定が二転三転している」と批判した。小林氏は昨年9月の自民党総裁選で9人中の5位と健闘した人物だ。高市早苗前経済安全保障担当相も同日、首相演説に苦言を呈した。「石破後継」舞台公演のカーテンコールを待ちかねる「有資格者」は少なくない。それにしても1年を経ずして再び総裁選かと各界からのブーイングは必至だ。さて、肝心の石破氏である。3月1日夜、赤坂の中国料理店で自民の笹川堯・元総務会長と会食した。石破氏が誘ったのだ。89歳の笹川氏とは衆院初当選同期生で気心知れた間柄。石破氏は夫人と娘を、笹川氏も娘を伴った。家族ぐるみ会食で両氏の会話は弾み、最後に笹川氏が「5回挑戦して得た総裁の座、何が何でも手放すな」と言い放つと、神妙な顔つきで「頑張ります」と応えたという。今国会は2025年度予算政府案の衆院通過を経て折り返し点にある。そして与野党による国会論議の焦点は今や「年収103万円の壁」を越えて新次元に移った。それは小林氏が言及した高額療養費をめぐる政府対応のふがいなさである。3月12日付日本経済新聞朝刊の見出し「石破政権、揺らぐ足元 高額療養費、参院・公明が修正迫る 年金改革にも先送り論」が端的に問題点を突く。まさに参院選を懸念する政府・与党内で落としどころが定まらず、右往左往しているときに行われたのがくだんのNHK調査であり、内閣支持率を大きく下げた。その中で今回発覚した石破事務所の商品券配布問題はタイミングが最悪だ。「お土産に10万円もか」とイメージも悪かった。石破氏は報道から一夜明けた14日午後の参院予算委員会で、「政治活動ではなかった」と繰り返した。政治資金規正法に抵触しないというのだ。
だが、与野党からの批判はもとより、世間の目も厳しい。朝日新聞の最新調査(3月15~16日)で、内閣支持率が前回比14㌽減の26%に急落し、自民支持率は2㌽減の23%になった。石破政権は今後の予算修正案、企業・団体献金、米価、関税、選択的夫婦別姓など、終盤国会でも難題を抱える。石破氏から全権を委任される森山裕幹事長の手にも余るのは明白だ。それでもたたかれ強い石破氏の下での参院選になるのはほぼ間違いないようである。