中国の習近平国家主席は3月28日、首都・北京の人民大会堂で外国企業のトップ約40人と会談した。中国経済が長期の不動産不況によって金融リスクに波及することを防ぐための国有大手銀行への公的資金を注入する中で、外資企業の中国離れについて電気自動車(EV)、人工知能(AI)技術、先端半導体などが発展する中国市場が有望であると習主席自ら売り込んだのである。
ところが、この習主席の外国企業トップとの会談についての報道に少々不可解な事が出来した。日本経済新聞(29日付朝刊)は「中国、外資つなぎ止め急ぐ―習氏、トヨタやBMWトップらと会談、企業は反スパイ法懸念」の見出しで記事と出席者リストを掲載した。出席者リストに、トヨタ自動車:豊田章男会長、日立製作所:東原敏昭会長、BMW:オリバー・ツィプセ社長、サムスン電子:李在鎔会長、フェデックス:ラジ・スブラマニアム最高経営責任者(CEO)、HSBCホールディングス:ジョルジュ・エレデリーCEO、サウジアラムコ:アミン・ナセルCEO、著名投資家(ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者):レイ・ダリオ氏――の8人の名前が記されていた。
一方、米ブルームバーグ通信(29日配信)は以下のように報じている。<習主席は28日、ブラックストーンのスティーブン・A・シュワルツマン氏、オーティス・ワールドワイドのジュディ・マークス氏、サムスン電子のジェィ・Y・リー氏を含む約40人の企業リーダーとの北京での会合で、中国の安定性をアピールするとともに、ドナルド・トランプ米大統領の貿易政策を暗に批判しました。……「我々は透明性が高く、安定した予測可能な政策環境を提供している」と習氏は述べ、中国を外国投資家にとって「魅力的な投資先」と呼びました>。実は、なぜか「日経」報道には肝心なシュワルツマン氏の名前が記述されていなかった。
まさに「外資つなぎ止め(を)急ぐ」習近平氏の腹の中を同通信は的確に指摘している。筆者の関心は、一にかかって同記事にもあり、且つ参加者リスト21人にも名前を連ねた「Stephen.A.Schwarzman/ Blackstone Inc」にあるのだ。 AP通信が配信した写真(カラー)に、そのシュワルツマン氏がパープル(紫色)のシルクネクタイを着用しているのが見て取れる。このネクタイは、2016年に同氏が私財1億㌦に加えて約5億㌦の寄付金を世界から集めて計6億㌦(約960億円)を北京の、習氏の母校でもある清華大学に創設した国際関係学修士プログラムの奨学制度「シュワルツマン・スカラーズ」(英オックスフォード大学の「ローズ・スカラーシップ」を念頭に置いて設立した)の象徴的なアイテムであり、言わば「制服」のようなものだ。▶︎
▶︎シュワルツマン氏が中国を訪れるたびに必ず紫色のネクタイを身に着けることは知る人ぞ知る話である。すなわち、「中国を受け入れることは、チャンスを受け入れることだ」と呼びかける習氏の求めに応じて今回、北京を訪れたのは、同氏の対中国基本スタンスが米中の「究極的デカップリング(対立)」回避にあると推測できるのだ。
となると、次のような見立てが生じる。当コラム前回で言及した世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、ドナルド・トランプ大統領が進める中国による海洋支配の阻止政策として中米パナマ運河の港湾事業を香港の巨大コングロマリットから総額228億㌦(約3.4兆円)で買収すると発表した。すなわち、米ウォール街出身の金融ビジネス界の大立者2人が、「親トランプ」のフィンク氏と「親習近平」のシュワルツマン氏の対立関係になるのではないかというのだ。
ところが、シュワルツマン氏は共和党員であり、フィンク氏は民主党員である。真逆の印象を与えそうだ。それでも両氏は共に昨秋の大統領選でトランプ選対に巨額な政治資金を寄付している。それだけではない。シュワルツマン氏はトランプ第1次政権時にホワイトハウス(WH)に設置された大統領戦略政策フォーラムの初代議長を務めているのだ。その政策フォーラムの一員だったフィンク氏は政権発足1年後の18年初め、実は米銀最大手JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEO共々トランプ氏と決別しているのだ。トランプ氏を巡り金融ビジネス界トップも複雑怪奇な動きをする。
そして解は、ワシントンからもたらされた。習近平氏が「味方」扱いするシュワルツマン氏は今や、実は北京市西城区長安街174番地の中南海(中国共産党総書記の居住所)とワシントンDCのペンシルベニア通り1600番地のWH(米合衆国大統領の執務室と居住スペース)とのリエゾン(連絡係)の役割を果たしているというのである。「米中デカップリング」のキーマンとなりそうなシュワルツマン氏の動向にもっと注目すべきではないか。