英誌The Economist(4月19日号)19~20頁の記事「China hawks are losing influence in Trumpworld, despite the trade war」は日本経済新聞(同22日付朝刊)6面のオピニオン欄に「対中強硬派、米政権で影響力低下」のタイトルで全訳されている。「日経」翻訳で読んだ筆者にとって、同記事は実に刺激的であった。トランプ政権に関する未知の情報がテンコ盛りの上に分析も鋭く、思わず黄色マーカーを手にして読んだ。
だが「ワシントン用語」との断りがあったものの、記事中の表現「優越主義者」と「優先主義者」は十分ではないにしても言わんとすることは何とか理解できた。しかし、「抑制主義者」には頭をひねるばかりだった。それは記事中で次のように使われている。<「抑制主義者」は米国は今後の戦争は避け、自国に専念すべきだと考える>。<排除したいという思いはトランプ・ジュニア氏ら抑制主義者とルーマー氏でほぼ一致している>。<だがコルビー氏は最近むしろ抑制主義者のようだ>。因みに抑制主義者は、原文ではrestrainersである。
少しずつ絵解きしてみよう。同記事冒頭で言及されたのは、トランプ関税騒動の最中の4月3日に公になった米国家安全保障会議(NSC)高官6人の解雇・異動。その前日にドナルド・トランプ大統領と会った極右の陰謀論者ローラ・ルーマー氏が、デビッド・フェイスNSC重要技術担当上級部長ら6人を中国との戦争も辞さない「ネオコン(新保守主義者)」であり、大統領に忠実ではないと断じた。米NSCには、2月7日の日米首脳会談実現のため、岡野正敬国家安全保障局長とともに事前準備で汗をかいたマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)を筆頭に、アレックス・ウォン大統領次席補佐官、イバン・カナパシーNSCアジア担当上級部長ら対中強硬派が少なくない。海兵隊出身のカナパシー氏は現政権で最も強力な台湾支持者として知られる。国防総省(ペンタゴン)ナンバー3のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)に関する指摘は興味深い(註:同氏は昨秋に文春新書から『アジア・ファースト―新・アメリカの軍事戦略』を刊行した対中最強硬派として知られた)。英誌記事は<……むしろ抑制主義者のようだ。台湾は米国の「存在にかかわる」問題ではないとし、台湾は防衛費を今の国内総生産(GDP)比3%から10%に上げるべきだと非現実的な主張を展開、>と続く。因みに同氏は、日本は防衛費GDP比3%、韓国は自力での国防に注力するよう求めている。そうしたコルビー氏発言を、抑制主義者のJ・D・バンス副大統領やジョン・「ドン」・トランプJrは強く支持しているというのである。▶︎
▶︎こうしたなかAFP=時事通信は23日午前(10:35配信)、スコット・ベッセント財務長官が22日(米東部時間)に米銀行最大手JPモルガン・チェース主催の非公開イベントで、米中両国の高関税の応酬について双方ともに禁輸状態に発展しているが、近い将来、対立は収まるだろうとの見方を示した。さらに日経新聞(電子版、24日午前5:48)が別の角度からフォローしている。これまたベッセント氏は23日(米東部時間)の講演で「IMF(国際通貨基金)や世界銀行の基盤を回復する(=ブレトンウッズ体制の再構築)必要がある」と述べたと報じた。
こうしたベッセント発言を耳にすると、The Economist流のカテゴリーに倣えば、果たして今や時の人である同氏も「抑制主義者(restrainers)」なのかとの思いが擡げた。そこで筆者は、ベッセント氏とは永年の知己であるワシントン在住の金融アナリスト、齋藤ジン氏に質問のメールを送った。返信には次のように記述されていた。<ベッセントの中国との通商話は、米国売りへの口先介入です。中国との関税競争も終わるので、少し落ち着き、という趣旨にすぎません。このままだと、米債・ドル危機になる可能性があるので、その対応です。コルビーは対中強硬派であると同時に、restrainerの側面を持つので、ドンJrやバンスと一括りにするには、ニュアンスを欠いていると思います>。
いずれにしても、これだけはハッキリしている。このThe Economist記事は稀にみる秀逸な分析であった。昨日昼、意見交換した国際情勢に通じる政府元高官も「全く同感だ」と言っておられた。