赤澤亮正経済財政・再生相は4月30日、米ワシントンに向けて午前10時33分発の全日空(ANA)102便で羽田国際空港を発った。高関税政策を発動したドナルド・トランプ大統領の「トラブルシューター(困り事解決請負人)」として知られるスコット・ベッセント財務長官と2回目の協議をするためだ。当初の予定を1日後倒しにして、5月3日午後に帰国する。石破茂首相にとって、当面の日米関税交渉で最大の懸念は4月3日に発動された25%の自動車関税である。
なぜならば中小企業中心の裾野が広いサプライヤーが自動車産業に依存しているからだ。ワシントン在住の名高い投資コンサルタント、齋藤ジン氏が指摘するように、自動車業界は製造業界における賃金基調を設定する役割も果たしてきていることと無縁ではない。この時期は政労交渉に関心が集まる時期でもある。しかし現時点では、米財務省を筆頭に通商代表部(USTR)、商務省など「トランプチーム」は日本が期待する自動車関税の引き下げに同意する兆候を示していない。それどころか、5月3日にはそれをエンジンなど自動車の基幹部品にも適用・拡大すると言い募っている。この自動車関税25%問題では、なぜか経済産業省や外務省の一部で最終的に米側が引き下げに応じるとの見方をする向きが少なくない。その理由は、石破政権がトランプ氏説得に自信を抱いているからではなく、米国の消費者が高関税政策のブーメランによって従来以上の高い自動車価格を受け入れるはずがないと見切っているからだという。多分、そうなると思う。
だが、それまでの期間に、換言すると米国向け自動車及び自動車部品25%実施が日本の自動車業界のみならず製造業界全体に与えるダメージは多大なものになることだ。経済産業省のデータによると、世界一のトヨタ自動車の本拠地やそのサプライヤーが所在する愛知県では総売上高に占める製造業の割合が14%以上で、47都道府県中トップの圧倒的なモノ作りの県である。そこがトランプ関税砲に直撃されるのだ。この一点からだけでも、「トランプ関税」が日本経済に与える影響は計り知れないことが理解できる。増してや夏には参院選が控えている。今現在の物価高はコメの小売り価格急騰から電気・ガス料金上昇にまで至る。▶︎
▶︎2025年の春闘では、連合の集計によると大手企業を中心に平均賃上げ率が5.42%と、34年ぶりの高水準を維持しているという。しかしこの賃上げが物価高に追い付かないのだ。こうした中で、立憲民主党(野田佳彦代表)は4月25日に党執行役員会を開催し、7月参院選の公約に1年間の「食料品の消費税ゼロ%」を盛り込むことを決定した。野田氏は民主党政権時の首相だった2012年に、消費税率10%への引き上げを決めた当事者だ。消費税減税の公約化は立憲民主党の政策転換である。
では、なぜこのような路線大転換が実現したのか。キーパーソンは江田憲司立民元代表代行だ。同氏は昨年12月、党内に「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」を立ち上げ、勉強会を通じて独自の物価高対策を提案してきた。だが野田執行部のガードは固い上に、12日には枝野幸男元代表が「減税ポピュリズムに走りたいなら党を出て別の党を作ってください」と消費減税論を強く牽制した。 この間、江田グループに党執行部要路を占める大串博志代表代行が馳せ参じたことが決定打となった。選挙対策委員長、総合選挙対策本部事務局長(参院選総合選挙対策本部事務局長・衆院選総合選挙対策本部副本部長)でもある大串氏は、旧大蔵省出身で野田首相時代の首相補佐官を務めている。「野田命」を自任する手塚仁雄幹事長代行とともに野田氏の懐刀であり、党有数の財政通でもある。その大串氏が江田グループに合流した。
因みに江田氏のグループ勉強会には海江田万里前衆院副議長も参加している。同氏は「サンクチュアリ」(旧社会党→旧民主党をルーツに持つ党内左派。現会長・近藤昭一衆院議員)の元メンバー。同勉強会には、同じくべテランの辻元清美代表代行も加わる。ここまで来ると70人に達した江田グループは立憲民主党内最大集団である。仄聞するところでは、どうも江田氏の本音は参院選後政局に照準を定めているというのだ。比較第1党の自民、野党第1党の立民両党ともに参院選で議席減を余儀なくされるはずだ。だが自公合わせても過半数割れなのか、それとも辛うじて維持するかで風景は一変する。この結節点に関する見立てを、是非とも江田氏に聞いてみたいものだ。