米ホワイトハウス(WH。大統領府)のウエストウィング(西棟)1、2階を占有するドナルド・トランプ大統領執務室以下、政権幹部執務室の配置図(米紙ニューヨーク・タイムズ作成)が筆者の手元にある。大統領執務室(オーバルルーム)は、WH西棟の北玄関(北ポルティコ)から入りロビーに立つと、目の前のルーズベルトルームを跨いだ南東角に位置する。ルーズベルトルームを背にして大統領執務室入口の正面に立つと、その右側に大統領専用書斎、大統領専用ダイニングルームが隣接し、左側には大統領秘書室(個人秘書・従者・執事など4人)、その奥にキャビネットルーム(閣僚会議室)、広報室が続く。さらにその東側にWH記者団向けプレス・ブリーフィングルームが控えている。西棟1階の住人は以下の通り(執務室の広い順番)。トランプ大統領を筆頭に、J・D・バンス副大統領、スーザン・ワイルズ大統領首席補佐官、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ロバート・ガブリエル大統領補佐官(政策担当)、ジェームズ・ブレア大統領次席補佐官兼上級顧問(法律・政務担当)、ダン・スカビーノ大統領次席補佐官兼上級顧問、テイラー・ブドウィッチ大統領次席補佐官(広報担当)、ボウ・ハリソン大統領次席補佐官(業務・ロジ担当)、アレックス・ウォン大統領次席補佐官(国家安全保障担当)、キャロライン・レビット大統領報道官、スティーブン・チャン広報局長、ミカ・ケッチェル安全保障担当顧問。同2階の住人は以下の通り(執務室スペースの広い順番)。ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官(政策担当)、デビッド・ウォーリントン大統領法律顧問、ビンス・ヘイリー国内政策会議(DPC)局長、スティーブ・ウィトコフ中東担当大使、メイ・メイルマン政策担当上級顧問、イーロン・マスク上級顧問(政府効率化省=DOGEリーダー)、セルジオ・ゴア人事局長、ロス・ワージントン首席スピーチライター。▶︎
▶︎トランプ政権の先行きを見極める上で要注意人物として、筆者がウォッチングを続けるミラー氏の執務室は西棟2階の北東角部屋にある。その左側に隣接するワージントン氏を挟んだ奥がマスク氏の部屋だ。常駐でないためか、あのマスク氏にしては部屋が小さいので配置図を見て驚いた。最近の言動が報じられていなかったマスク氏だが、トランプ氏の中東3カ国歴訪(5月13~16日のサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦)に、スコット・ベッセント財務長官、世界最大半導体メーカーのエヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)、米最大手投資会社ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマンCEOらと同行している。このWH西棟居住者リストに名前が記載される米国家安全保障会議(NSC)事務局長でもあるウォルツ氏は、3月末に政権幹部が中東イエメン空爆に関する情報のやり取りを民間アプリ「シグナル」で行い、そのチャットに不用意に米誌編集長を招いていたことが発覚、4月半ばにその責任を問われて更迭された(その後、国連大使に転出)。ウォン次席補佐官も辞任圧力に晒されているようだ。
兆しはあった。ホワイトハスは4月3日、NSCのトーマス・ブードリー立法問題担当上級部長、デビッド・ファイス=テクノロジー安全保障問題担当上級部長ら3人の解任を発表した。そしてその前日にトランプ氏と会談した著名な謀略史観論者で極右活動家のローラ・ルーマー女史は英BBCの電話取材に対し、同大統領との会談内容を明かすのは「不適切」であり、「極秘の会談だった」と述べた。ワシントンの消息筋は筆者に「ルーマーは単なるカバーアップ(隠れ蓑)で、裏にワイルズとミラーの2人がいる」と述べた。ワイルズ首席補佐官(68歳)とミラー次席補佐官(39歳)の「母子コンビ」が謀って政権要路を占める、特に NSC内の対中強硬派のウォルツ氏以下、ウォン、ファイス、ブードリー、そして情報担当上級部長のブライアン・ウォルシュ氏らを一掃する腹積もりというのだ。懸念されるのは、トランプ氏が権力中枢を「アメリカ・ファースト派」で固めて、さらに内向き志向強化路線に突入することだ。
それはMAGA純化路線と言っていい。それ故に市場を熟知し世界貿易システムの機能を掌握、且つマーケットも熟知する国際協調派のベッセント氏の「身」を心配するのは筆者だけではあるまい。なぜならば、スイスのジュネーブで10~11日に開いた米中関税閣僚交渉の米側責任者、ベッセント氏が目指す「均衡貿易(balanced trade)」の達成、すなわち米中包括的合意までにはまだ時間がかかるからだ。