石破茂政権の対米通商貿易交渉責任者、赤澤亮正経済財政・再生相は6月26日午前、7回目の日米閣僚協議出席のため首都ワシントンに向け発つ。羽田空港午前10時20分発ワシントンDC(ダレス空港)直行の全日空NH102便の使用機米ボーイング788型にはファーストクラスが設営されていない(DC→羽田のNH101便も同じ)。従って赤澤氏は、5週連続のワシントン出張で片道約12時間50分のフライトをビジネスクラスで過ごす。一般常識ではビジネスクラスで十分であるが、永田町の常識は異なる。大物政治家(首相経験者等)や現職大臣は常にファーストクラスを利用する。
しかし赤澤氏は過半が1泊3日のハードスケジュールの上に、交渉相手がタフネゴシエイターで知られるスコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官、ジェイミソン・グリア米通商代表部(USTR)代表との長時間協議である。心身ともに疲労困憊のはずだ。他人の胸中を読まない(読めない)とされる石破氏だが、さすがに同情しきりだという。それでも日米閣僚協議を通じて日本の期待通りの成果が上がればそれは「首相の手柄」となり、不調に終わればそれは「交渉担当相の力不足」となることを赤澤氏は十二分に承知しているという。意外とストイックな御仁のようだ。それはともかく筆者は、先にカナダ西部のカナナスキスで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて16日午後(現地時間)に同地で行われた日米首脳会談に関する極めて興味深いDC発情報を入手した。それは日米閣僚協議すべてに同席している山田重夫駐米大使が、首相官邸から日米首脳会談時に日米関税交渉の基本合意文書調印もあり得るので事前に書類等を用意するよう指示され、現地に持参したというものだ。
しかし、実現しなかった。それどころかドナルド・トランプ大統領は、イスラエル・イラン情勢急変による米国家安全保障会議(NSC)緊急招集を理由にG7サミット1日目で急きょワシントンに戻った。▶︎
▶︎ここでは日米トップ会談で基本合意に至らなかったことの成否を論断しない。問題視すべきは、何を以って「チーム赤澤」が5回目の閣僚協議で「次は首脳会談で合意に進展する」との感触を得たと、赤澤氏から石破氏に報告が上がり合意文書の準備指示が東京からDCに伝えられたのかを検証すべきである。赤澤再生相を司令塔とする「チーム赤澤」の主力メンバーは、外務省の片平聡経済局長・村上学北米局北米第二課長、財務省の三村淳財務官・村口和人財務官室長、経済産業省の荒井勝喜通商政策局長・藤井亮輔同局米州課長で構成されている。同行メンバーの中では荒井氏が格段の働きを示せば夏の霞が関人事異動で下馬評を覆す事務次官抜擢も無しとはしないと言われていただけに、極めて力が入っていたことは関係者の間で周知のことだった。
だが、7月1日付で発令された経産省の定期人事異動で飯田祐二事務次官(1988年旧通産省)の後任に、本命視されていた同期の藤木俊光経済産業政策局長が就いた。人事でもサプライズはなかった。 ところがトランプ氏は22日未明(現地時間)、イランの首都テヘラン近郊のフォルドなど核施設3カ所に対する空爆作戦「真夜中の鉄槌」にゴーサインを出した。すでにパレスチナ・ガザ地区の武装組織ハマス、レバノンのイスラム教シーア派武装組織のヒズボラ、イエメンの親イラン武装組織フーシ派などイスラム過激派の弱体化が明らかになっており、イスラエル自らが多大な犠牲を払ってイランの制空権を抑えたタイミングに決断したのだ。国際法違反云々の議論は措く。要するにトランプ氏は最小の犠牲(損失)で最高の成果(利益)を手にするには?で物事を決める。ビジネスマン(不動産屋)の発想である。因ってイラン攻撃は「やり得だった」が、次のディール(取引)となる関税交渉は?という連想になる。DCからの新たな情報によると、対日交渉は米国が「相互関税」の上乗せ部分の猶予期限とする7月9日前に基本合意に持ち込む腹積りというのだ。交渉相手国名がウェイティングリストに満載なのだ。米側のベッセント氏ら3閣僚は超多忙である。
一方、石破政権が日米関税交渉におけるプライオリティ第1位にする自動車・部品関税25%の撤廃にはリアリティがない。だが、10%に引き下げることで合意をみれば「大成功」と言える。「チーム赤澤」は帰国に際して経済界を筆頭に各セクターから万歳三唱で迎えられるはずだ……。